地下迷宮3
金属板が使えない理由は分からず、壊れた可能性すらあった。単に入口より下がったせいだと思い込もうとしても、階段の下に転がり落ちても帰れた経験が否定してくる。
それでも捨てきれずに金属板を懐にしまい、重なっているガラスの上から下を覗き込んだ。
見えるのは透明なガラス。その先にも同じようにガラスが貼られているのだろうが、透過率が高く判別できない。
念のためしまったばかりの金属板を落として、そこにちゃんとガラスがあることを確かめる。
重さで割れないことを願いつつ、なるべく鉄柱に近い場所に降りる。重なるガラスを支えにして金属板に手を伸ばすと、見える角度が変わって薄らと青いガラスが確認できた。
「…………」
身体を起こすと鉄柱からはみ出した足の下に何も無く見えて、延々と同じ構造が下へと向かって続くのが確認できる。床ガラスの上にいるとわかっていても、まるで高層ビルのてっぺんから宙吊りにされているようだ。怖気が尻から背筋を駆け上がっていくのを感じても、抑えようもない。
上を見上げれば数本の鉄棒を越えた先に、床ガラスと同じサイズのモノクロタイルが貼られた天井が見えた。
腰が引けているのを自覚しながら、重なるガラスに沿って円柱まで移動する。
円柱に張り付くように移動すると、指先がガラスに触れた。どうやらガラスは壁にもなっているらしい。
横方向へと視線を巡らせれば、まるでパッチワークのように区分けされた壁が並ぶ。この場所の正面から数個右下のところの壁に扉があるのが見えた。それが出口であってほしいと願う。
鉄棒で囲われた正方形で言えば奥に四つ、右に二つ、下に二つ。その奥側に喫茶店の入口を思わせるような木製の扉があった。
壁ガラスを叩いてみたが、かなり頑丈で割れそうもない。同程度に床ガラスも頑丈であることを願いながら、壁ガラスに張り付くようにしてゆっくりと進む。
五メートルほど進み思ったよりも強度のあるガラスだとわかってきた。
そうでなければ落下したまま、永遠に落ち続けていたかもしれない。そんな考えに再び怖気が走るのを感じていたら、下の方に人影を見つけた。




