地下迷宮2
落下距離と体重に比例して衝突時の衝撃は大きくなる。
背負い鞄越しに肺が蹴り付けられたような衝撃を最初に受けて息が止まった。
僅かな間を置いて再び殴りつけるような衝撃に反動で息が戻っても、その次の衝撃にむせるタイミングを失う。
気付いた時には身体を丸くして頭を抱え、背負い鞄に乗り上げた状態で縮こまっていた。
ようやくむせることができた肺が痛む。
それでも死んでいないことを確かめて、どうなっているのかと起き上がろうとした。
その足元でガラスが擦れる音がする。どうやらフロントガラスのような砕け散らないガラスが何枚も重なった場所に落とされたらしい。たわんだ蜘蛛の巣のように広がるガラスが見えた。
また落下するのを避けるために体重が偏らないように気をつけて腹這いになり、蜘蛛の巣から抜け出ようと匍匐前進で進む。
しかし既に限界だったのか。それとも目の前に落下した金属板がトドメになったのか。
蜘蛛の巣状のガラスが縁でちぎれて、諸共に落下する。
たぶん身長程度しか落ちなかっただろうが、腹這いで落下した衝撃はそのまま抜けた。顎まで打ったせいで呻くことしか出来ない。
内心で悪態を吐きつつ、平たくなった蜘蛛の巣状のガラスに一番下まで落ちたのかと視線を向けても、ガラスのビビでよく見えなかった。
恐る恐る四つん這いになり、怯えつつ立ち上がる。掴まり立ちを覚えた赤ん坊よりも頼りない立ち姿だ。背中や腹より、むしろ内側が痛めつけられたせいで背骨に沿って痛みが右往左往している。
周りを見れば先ほどよりも遥かに細い円柱が並んでいた。違うのは照明付きの十メートル程度の鉄棒が正方形を描くように繋がっていることか。おそらくガラスの床を支えるために必要なのだろう。
まるでガラスが貼られたジャングルジムだ。
「……くそったれ」
やっとの思いで悪態をこぼし、重なったガラスの端までふらつきながら歩く。背負い鞄が邪魔に感じるほど身体が受けた負担が大きい。今日はもう帰って寝ようかと思いつつ、落ちていた金属板を拾う。
昨日野良猫探しに突起を最小にしていた筈だが、デタラメに配置されている。どうでもいいと思いながら現実に帰ろうと両手の指を添えた。
だが、なんの変化もない。目盛りを変えたり弄って試しても見える景色が変わらず、膝から崩れ落ちた。
自ら【地下迷宮】に入り込むという愚行を、今更になって後悔した。
次の話からは、また毎晩1時の投稿になります。




