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地下迷宮1

 異常な現象に対して通常というのもおかしな話だが、通常は乗り換え駅で【誘引】されるため自宅から【地下迷宮】に訪れることはない。

 それでも過去の経験は活きるもので、【地下迷宮】に現れたときには四つん這いに近い体勢を取っていた。背負い鞄が軽く後頭部を打ったが痛むものではない。


 階段を転がり落ちるのを避ける行動は無駄に終わり、少し落下した程度で平らな床に着地していた。


 三角に塗り分けられたモノクロタイルは、黒と白の線を描いて広がっている。それを辿るように顔をあげれば、地下神殿を思わせる景色が広がっていた。

 ビルの五階ほどの高さにある天井は微かに紫を帯びた黒に染まり、無作為に散りばめたような照明が見える。その光は強さも色もまちまちで、天井の黒さと併せて夜空を模しているようだ。


 天井と床の間は均等に並んだ無数の柱で繋がっている。下は塗装が剥がれたようにコンクリートが剥き出しで、上に行くほど金色に照明の光を返す。

 携帯のカメラをズームして見ると、金色の塗装ではなく金属板が貼り付いていた。【地下迷宮】にくるために使ったものと同じものだ。



 どこかでそれが落ちたのか、甲高い音が響きわたる。どれだけの広さがあるのか見通せず、とりあえず音がしたと思われる方へと足を向けた。


 基本的な構造が同じためか、差異は違和感となって現れる。

 大きな柱の下、少し離れたところに箱が落ちていた。モノクロのタイルの上に置かれている金色の箱はとても目立つ。


 表面に描かれている図案は金属板のそれと同じで、内側から膨らませたように立方体に沿って折れ曲っている。

 周りに目を向けてもそれ以上に目立った変化はない。遠巻きにして一周したが、金属板が落下して出来たらしいモノクロタイルの破損があった程度。しかしそこから泡壁が発生することもなく、金色の箱にも変化はない。


 そのせいで油断していたのだろう。


 箱に近づこうと四つの柱に囲われた床に数歩踏み入る。箱に手を伸ばそうと腰を曲げるのを待っていたかのように、そのタイミングで床が消えた。



「うぉあっ!? がっ!」



 バランスを崩して掴み損ねた箱はそのままの位置に固定されたように動かず、狙ったように額を打つ。

 驚きから立ち直る隙もない打撃に脳震盪を起こしたのか、落ちていく方向がわからなくなる。


 視界の左端に明かりが見えた気がして首を向ければ、落ちた穴が小さくなっていくのが見えた。


 どうやら既に十メートル以上は落下したらしいが、それ以外は真っ暗で何も見えない。

 落下先がコンクリートなら即死するだろうし、水でも同じだろう。

 そうなる前に現実に戻ろうと懐に手を入れて、金属板を取り出そうとする。



 無かった。



 一瞬にして汗が吹き出し、大慌てで他の場所にしまったのかと探しても出てこない。

 悪態を漏らす余裕さえなく、背負い鞄越しに衝撃が突き抜けた。


週末なので次の話は一時間後に投稿します。

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