誰もいない縁側
家に帰ったのは日が変わる少し前だった。
あれから数駅で試しても無駄だった。掲示板や情報サイトに動物の目撃情報を探しても嘘だらけのネタと冗談ばかり。
地下街にペットショップがある駅から逃げたのでは、という指摘を見て店も見に行ったが、当然見慣れた野良猫は見つからない。
だんだん怒りも収まって、何故こんなに頑張っているのかと冷めた気持ちになって帰路についた。
家の中に入って最初にしたのは、縁側を見ることだった。
「だいぶ荒れてるな……」
土日で手入れをした方がいいかもしれない。
伸びて増えた草が庭を埋めて、そこから松の木と柿の木も前より育って見える。少し枝も落とした方がいいだろう。
振り返って見れば、いつも目にしている筈の家の中のあちらこちらが目についた。
障子に貼ったコピー用紙や、床板の焦げ。埃をかぶっている推理小説など。
ちゃぶ台をひっくり返して見れば、子供の頃に流行ったキャラのシールがまだ張り付いている。
「……こんなものを見たのは二十年ぶりくらいか?」
ちゃぶ台を戻して座り込み、縁側に目を向けても誰もいないし布もない。
自分でもただの誤魔化しだと分かっていながら、タオルでも敷こうと思い洗面所にしまってあるのを取りにいく。
手に取ってみてもタオルからは洗剤の匂いしかしないことに、虚しさを覚える。
不貞腐れた無精髭の男を鏡に見つけて、情けない面構えだと吐き捨てて階段へと向かった。階段をあがっていくと、微かに残った匂いが鼻に届く。
梨とも蓮ともつかない匂いは随分と弱々しい。
それでも一つの部屋のドアを開けると、堰き止められていた匂いが流れ出てくる。床に落ちたままの香水の瓶は中身がなくなり、部屋中に匂いを染み込ませている。
ベッド横に落ちているブランケットを拾っただけでも埃が舞うのを手で払いながら、部屋から出てドアを閉じた。
使う者がいない部屋を何故そのままにしているのかという自問を無視して、縁側に戻ってブランケットを広げる。
それで何が起きるわけでもない。
近所の家から生活音が微かに漏れ聞こえても、この家からは聞こえてはこない。
「……くそったれ」
誤魔化すように吐き捨てても、どこかにつっかえたような感覚はしこりのように残っている。
そうして一人。
他には帰ってくるもののいない家の縁側に座り込み、日を跨いだ。




