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地下迷宮の売店3

 普段であれば適当にテレビをつけっぱなしにして、晩酌をしている時間。寝るには早いため、売店に置かれている雑誌コーナーを冷やかしている。

 不動の圏外表示を維持する携帯は、電話もメールも調べ物もできない板型の時計に過ぎない。


 そのため普段は見ないような雑誌のページを捲り、キャンプセットの値段を見比べている。

 コンロや寝袋に魅了されながら、毎日の通勤に携行することの難易度を思う。骨が軋むレベルの満員電車で、キャンパースタイルは冒険が過ぎる。


 並んでいる雑誌のいくつかには【地下迷宮誘引現象】を取り上げている記事もあった。

 まぁ、だいたいは上っ面だけなぞった説明ばかりでまとめサイト以上に参考になるものはなかった。


 無人の売店では雑誌を立ち読みしていても注意されることもない。

 風俗雑誌がコンビニから消え、漫画を読むという習慣も社会人になってからは消えた。

 雑誌を立ち読みしていると、まるで中学生時代を振り返るような気分になり少しだけ気恥ずかしい。

 誰もいないとはいえ、倍近い年齢になって同じことをしている自分に、本質的には成長していないなと思う。

 それでも雑誌に載っていたキャンプ用品のいくつかを撮影して、そろそろ寝るかと身体を伸ばす。



 レジ側に入りタバコという最重要品を二箱手に取り、その在庫が少ないことに気づいた。陳列棚の下にある納戸にでも置いてあるだろうから、いっそのことカートンで買ってもいいか。

 ふと、納戸の上に置かれたノートが気になった。手に取って見れば、コンビニ店員が業務連携に使っているノートらしい。


 他の誘引被害者がいるならば何か書いていないかと思いながらページを捲ると、それらしいものが後半からいくつも出てくる。

 こんなものがあるならキャンプ雑誌よりも先に見ておくべきだった。



 書いてあったのは、娘や妻に宛てた遺書のようなものが一つ。異世界転移を喜ぶ記載と、それをからかうものがいくつか。このテンションの違いはなんなのだろうか。



 まだ妻も子供もいないのに、遺書の筆者の方が親近感を持てるのは歳をとったせいだとは思いたくない。

 帰ってこない同居人の無表情な顔が何故か思い浮かんで、胃がムカついてきた。くそったれめ、と思いながらノートを納戸に叩きつける。思ったよりも大きな音が響いた。

 それぞれ好き勝手なことを書いてあるのはわかったが、役立つページはなかった。

 現実に帰らずにここで暮らしたいなどと書かれたものさえあった。果たしてそいつはどこに行ったのだろうか。



「……役に立たねえなぁ」



 そんな呟きをこぼして、カウンターからペンを取る。

 このコンビニを中心に簡易的な地図を書いて、今朝の乗り換えに至るまでの道のりと必要日数を書き添える。


 そのページを開いて、閉じないように重しをしておく。【地下迷宮】初心者だった自分としては、この地図があるだけでも心強くなれる。見た瞬間に一度折れるとは思うが。



「さて、タバコタバコ……っと」



 自己満足に浸りながら一箱を胸ポケットに詰めて、もう一箱を手で弄ぶ。レジ打ちする前にせっかくだからカートンがあるか確認しようと思い、納戸を開いた。


 そこで見たものを、俺はたぶん一生忘れないと思う。


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