【誘引】7回目13
少し息が整って目眩も治った頃には、泡壁は隙間をほとんど埋めていた。
自力では抜け出せそうにない中野姉を助け出そうと手を伸ばす。
「うひゃぁは!?」
向こう側の通路を埋めるために泡壁が侵食を開始したのだろう。腹だけでなく足も泡壁でくすぐられる感触に包まれたせいか、そんな奇声が上がり奇妙な音が強めに口から漏れ続ける。
そんな状況に油断していたのだろう。
石壁に挟まれた中野姉を泡壁が飲み込んだということが、どうなるのかを失念していた。
一瞬、蠢きを止めた泡壁。それが再度移動する際には加速することを、完全に忘れていた。
その速度に併せてはみ出していた上半身が、泡壁飲み込まれそうになる。涎を垂らすほどに笑っていた顔が、頭一つ分は動いただろう。
それ以上飲み込まれる前に、両手を脇の下へと滑り込ませられたのは偶然に近い。
加減など無視で突き出した両手は石壁にぶつかりながら、それでも身体を抱きしめるように腕を回していく。
引きずり込まれる力に逆らい、踏ん張るまでは良かった。
想定外にあっさりと抵抗がなくなり、放り出された中野姉が飛び込んでくるように腕の中へと落ちてくる。そんな壁を胸に抱く感触を、足が滑って浮いた感覚の方が上回った。
まるで椅子の背もたれに寄りかかりすぎて倒れるような、無様な転倒。
壁を上に乗せたように背中から倒れていく勢いを殺しきれず、首が上を向いてしまう。
まるで鈍器で殴打されたような衝撃を後頭部に受けて、弾き出されたように意識が飛んで行った。
週末なので次の話は一時間後に投稿します。




