【誘引】7回目12
引いた手が離れていないことを確かめながら分岐路へと走っては、泡壁が発生していない方向を確かめて分岐路へと走る。四つ目で既に十字路はT字路になっており、それを越えた通路は分岐路三つ分の直通路へと改変されていた。
正面通路の奥に見える薄暗い明かりが少しずつ影っていくのを見て、更に足を速める。
「……ヒャー」
息をする余力もない全力疾走は、手にしたおもりによって思うようには進まない。代わりにどこからかまた掠れた声のような音が聞こえる。
石壁にナイフでつけた跡から発生したらしい泡壁は、道の半分を埋めていた。その残った隙間に身体を放り込むようにして分岐路へと飛び込むと、走り続けた限界か目眩がしてくる。
足が止まって、抜け切った酸素を求めて肺が暴れ出す。
貧血を起こしたらしく両手で石壁にすがりつく。収縮を繰り返す肺が周辺の神経や筋肉を押し広げていく音と拍動音が脳に響いてやかましい。
目眩を堪えて目を開いて辺りを見れば、壁が壁に埋まっていくところだった。
「うひゃあぁぁっ!? な、なんですかこれ!? た、助けてください!」
いや泡壁が壁を埋めていくところだった。隙間を抜ける時に挟まれたらしい。半ば倒れそうな体勢で石壁を背にして泡壁に挟まれている。
そのまま分断されてしまいそうな恐ろしい光景とは裏腹に、シャツが腹部で引き下げられるように押し付けられていた。その周辺の泡壁が震えるように蠢いている。
「ちょ、待って! くすぐった、ふひゃぁふ。ま、お腹やめ! これ以上はふひっ、本当に限界だかっ、ぶひゅふ」
こっちも息が切れているが、中野姉も呼吸がままならないらしい。
ぶひゅうぶひゃふ、となんとも言えない音が漏れ続けるのを聞かされながら、ため息もつけずに息を整える。
どうにもこの姉弟は泡壁と相性が悪いらしい。
週末なので次の話は一時間後に投稿します。