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【誘引】7回目10

 石壁に反響した声にならない悲鳴で鼓膜を痛め、また耳鳴りに苛まれながら音源から距離を取る。

 何故かこちらに暴力を振るってくる理不尽から逃げるためだが、あまり離れて見失われても困る。


 少しだけ、別行動をした方がこれ以上何か余計なことを見聞きしなくて済むのでは、と思ったが踏みとどまった。



「何も……何も見てませんね? 見てませんよね? 見てないって言って下さい」



 背後から、脅したいのか泣きたいのかわからない声音と衣ずれの音が聞こえる。


「何のことだか知らんが、さっさと準備を済ませてくれ」



 同じ会社の女性社員に胸の底上げ具合を話題にできるはずもない。無闇に強い圧を背中に浴びつつ答えれば、シャツの背中を摘んで引っ張る感触が返ってきた。



「絶対に秘密にしてくれますよね? 絶対ですよ? 誰にも言わずに墓まで持っていってくれますよね?」



 悪霊に取り憑かれるとこんな感じなのだろうか。背後から怨嗟の声に祟られて、鳥肌が立ち背筋が寒くなり身体が震えた。

 走り回って汗をかき、冷えた石の床に座っていたせいだと思うが、背後の悪霊モドキの怨念のせいだと錯覚しそうになる。



「新人にマウントを取れる最後の拠り所を壊したりしないですよね……?」



 貧相なマウンテン、いや貧相なマウントにしがみつく様が哀れに思えてきて涙を誘う。虚構の山から見下して保たれる中野姉の自尊心はどれだけ小さいのか。山もプライドも標高ゼロなのか。



「中野姉はどこかで扉は見なかったか? 違う種類の通路とか、変わったものとかでもいいが。変化があれば出口へのヒントになるかもしれない」



 何か違いはないかと石壁を軽くはたいても、固くて冷たい感触が返るだけだ。映画で見るような風景とはいえ隠し通路はないのだろう。そんなノリで【地下迷宮】が形作られているなら、きっとこの場所は昆虫とコウモリとトラップの山だ。標高ゼロの山でよかった。

 話題が変わったためか背後の怨霊が放つ圧が薄くなり、立ち止まったのかシャツを摘んでいた手が離れた。



「いや、特に見てないですけど……それより中野姉ってなんですか? 私が中野で、弟が中野弟じゃないとおかしくないですか? 知り合ったのは私が先ですよ? 同期だってこと忘れてます?」



 どうやら怨霊の地雷を踏んだらしく、呪われそうな視線が絡みつく。同期だと初めて知ったことは黙っておいた方が良さそうだ。



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