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【誘引】7回目9

 石壁と床に張り付くように後退った中野姉は身体を隠すようにしてこちらを睨んでいるため、その距離を保ったまま話しかける。


 シャツのボタンもスカートのホックも外れておらずその中身に異変もないだろうと、多少の着衣の乱れがあった程度で人を犯罪者扱いしていることを嗜める。状況の確認や脱出方法の相談をする前にこんな話をしなければならないことに、【地下迷宮】の理不尽を感じた。


 特に違和感もないだろうと諭してみた後になって、自分以外にも誰かがいてことに及んだ可能性もあると気づく。


 静かになって俯いた中野姉に少し気まずくなる。

 何と声をかけたものかと考えていると、突然キレられた。



「はぁ!? わかりませんけど! どんなふうになるとか、このくらいの歳だからって誰もが経験しているわけじゃありませんから!」



 ゼミボブの隙間から見上げるように睨めつける視線は鋭く、やたらと圧が強い。



「いや、せいぜい汁気が残ったり傷がついたりしているだろうとしか、その手の犯罪のことなんて俺も知らんからな?」



 今にも懐から刃物を出して襲い掛かってきそうな雰囲気に圧されて、早口に告げて座ったまま距離を取る。



「え、あぁ、そういう意味…………出口を探しましょう!」


「そうだな、そうしよう」


 下手すぎる話の逸らし方だったが、性経験がないという明らかに不要な情報に触れずに済むのは、こちらもありがたいので合わせる。


 異様に圧が強い視線と食いつきそうに歪む口元から目を逸らし、改めて周囲を確認しても何の変化もない。

 碁盤目状の通路と分岐路。松明風の薄暗い蛍光照明。分厚く硬そうな石の壁と床、天井。分岐路の先を覗いて見ても似たような通路が続くだけ。道によってはカビのような臭いと猫のショウベンのような臭いもするが、その発生源は見えない。



「あ、あの……眼鏡が割れていまして。その、つかまってもいいですか?」



 言われて振り返れば四つん這いになってこちらに寄ってくる中野姉。



「もう外せ、その眼鏡。あと、着崩れているのも直せ」



 そう言って手を取って立たせてやると、寝起き状態で懐を掻いていたせいだろうか。

 はみ出したシャツから滑り落ちたものが石の床にぶつかり、べちゃりと音を立てた。



 どうやら壁は思っていたよりも薄くて固いらしい。



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