表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/123

【誘引】7回目6

 逃げるものを追うという動物的な本能によるものだろうか。


 反射的に追いかける行動をとり、呼びかけながら分岐路をいくつも越えていく。何故か全く逃げるのをやめようともしない相手に苛立ちを覚え始めたが、相手は出口もわからない【地下迷宮】に閉じ込められた女だ。


 いきなり男が現れて追いかけて来たら逃げても不思議ではない。刃物を持って突進して来た鈴木とは違うらしいと少し安堵したが、世の中の大部分は異常事態に陥ったからと言って鈴木や老人のように他人を殺そうとはしない筈だ。むしろ迷わず殺しにくるやつなど滅多にいないと信じたい。



 石壁の分岐路をデタラメに折れ曲がること十数回。落ちていた一円玉を蹴り飛ばし、また甲高い音が響いて足を止めた。

 障害物競走のようなことをしてもほとんど距離が縮まらず、徐々に冷静さを取り戻した結果は、酸欠になりつつむせるという形で現れた。



 幻覚でも見せられていたのかという思いと追いついてどうするという思いが、冷静になった思考にバカバカしさを感じさせる。


 落ちていた一円玉を財布に戻して、このままでは本気で禁煙させられかねないと舌打ちを漏らした。

 追い回していた女もどこかで見たような気さえしてきて、ますます幻覚だったのではないかという思いが強くなる。

 酸欠のせいで耳鳴りや幻聴までしているのだろう。甲高い音に紛れて子猫が鳴くような、ヒャーンという音まで断続的に聞こえてきた。もしかしたらガスにやられているのかもしれない。


 目眩がしているような気がして仰向けに寝そべると、冷えた石の床が思いの外心地良かった。

 色々と吹っ切れた気分になりタバコを咥えて、ライターを取り出す。爆発しようがどうでもいいと思いライターに火をつけようとした瞬間。



 壁が俺を踏みつけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ