【誘引】7回目4
笑みが引き攣っていることを自覚しながら置いたままの一円玉の前に座り、これまでの【地下迷宮】を振り返ってみる。
最初に【誘引】されたのは延々と遠くまで歩かされるルート。
二回目のルートは逃亡する羽目になった上に分岐が多かったが、総じて見れば階段が多かった気もする。
三回目は泡壁に追われたせいで死にものぐるいで全力疾走をさせられた。
四回目は中野と一緒に【誘引】されて、延々と青竹踏みのような道を歩かされた。清掃機械に潰されかけたが死んではいないのは記憶があることから明らかだ。出口にたどり着く余力もなかったから、強制的に戻されたのだろう。
五回目は老人が金属板で鈴木を【誘引】した際に巻き込まれたと考えていい。そうでなければこの時だけ駅とは関係ない場所で【誘引】された理由がわからない。まぁ、【誘引】される理由も不明確なのだが。
六回目は金属板で自ら【地下迷宮】に来た。その金属板が往復専用だとは思わなかったが。
そして今回が七回目だ。
一週間も経たずに七回も【地下迷宮】に来ていることに胃が軋む感じがしてくるが、今は置いておこう。
五回目と六回目のケースを除けば、【誘引】され続けたことの傾向が見えてくる。
歩かせて運動機能を回復。階段を増やして体力の増強。全力疾走。ツボ押しによるチェック。
全体的に心肺機能の復旧という目的や、禁煙させるためのリハビリコースのような色が、ありありと浮かんでくる。
溢れてくる苛立ちを誤魔化すように、目印に置いた一円玉を拾って指で弾く。
しかし受け取り損ねて、甲高い音を立てて転がっていった。胃の軋みが吐き気に変わりつつあり、立ち上がって取りに行く気にもならない。ガスを吸っているのかもしれないという恐怖感を覚えて、自嘲するような呟きが溢れる。
「その上で引火しそうなウォーキングコースにご招待か?」
老人が何度も人体実験を受けて精力的になったように、【誘引】される度にタバコがいらない身体へと改変されていたのだろうか。
そう考えると、四回目に圧死せずに戻された理由が、積み上げた成果を保持するためなのではないかと思えてくる。
その上で爆死するリスクを負わせて、タバコが吸いたいかと追い詰めるようなこの場所だ。
実にバカバカしい話である。
「死にたくなくたってタバコは吸うもんだろうが」
そう嘯きながら、タバコを咥えてライターを取り出す。
臭さを感じながら火をつけようとする手は、少し震えていた。
週末なので次の話は一時間後に投稿します。




