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【誘引】6回目

 半ば疑っていたが、老人の妄言は本当だった。



 薄緑色に塗られたタイル壁と粉を吹き付けたような荒い天井。それを目にした瞬間、俺の足は階段を踏み外し転げ落ちていく。

 身体のあちこちを段差に打ち付けて転げ落ち、踊り場に放り出されてようやく止まった。


 突起だらけの床とは違う打撲的な痛みに悶絶しながら、手にしていた板を落としていないことを確かめる。

 その先に見上げた階段の果てに、老人が呆然と立っていた。


 手にしている板を支えるために他の指が触れていたのだろう。指定された丸だけでなく裸の男の図案も、黒っぽい色に染まって見えた。そしてまた集中線も突起を頂点としたレーダーチャートのように染まっている。



 直感的にこの板の機能に関して予想がついて、頭が痛くなった。



 これは【地下迷宮】と往復するツールでもあるが、他人を【誘引】するためのツールでもある。

 おそらく集中線が対象との距離と範囲か人数、裸図が大雑把な選定基準になるのだろう。

 両足がついている相手が対象のため、乗り換え駅のホームでは【誘引】されたりされなかったりという不安定さが起きる。だいたいが急いでいるから、両足がついている瞬間は狙いにくいのだろう。

 そのおかげで鈴木は通学の度に毎回【誘引】されることはなく、数回の被害で済んでいたと言えるのは不幸中の幸いなのか。



「……俺が高頻度で【誘引】されているのは、この板とは別の原因か」



 どれだけの数の板が出回り悪用されているのか予想もつかないし、知りたくもない。

 自分のことだけで手一杯なのに、不要な情報が増えて頭が痛くなる。

 立ち上がることもせずにそのままタバコを吸ってしまいたかったが、そうもいかないらしい。


 階段上で【誘引】に巻き込まれたことに気づいた老人と目があった。迷いもなく懐から折り畳みナイフが取り出されて、こちらに向かいながら切っ先を露わにする。再臨した刃物付きのナントカが階段を駆け下りてくるのは、正直心臓に悪い。


 それでもやるべきことは単純なことだ。

 未だに黒っぽい突起を気紛れに弄り、裸図に触れないように板を確認して両足を地面につけた。



「ま、まて! やめろぉぉぉ!」



 心臓の疾患が改善されるまでにどれだけ【地下迷宮】を彷徨ったのかはわからないが、余程キツかったのだろう。もしかすると毎回死ぬまで現実に帰れなかったのかもしれない。

 殺意に満ちていた顔が一瞬で蒼白になり、懇願するような声が響いた。


 階段を踏み外してナイフを手放した老人が宙に舞うのを見ながら、俺は板に指を添えた。



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