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【誘引】5回目4

 引きずり起こすようにして鈴木を立たせて、反対側の通路へと走り出す。

 鞄や台車など、気にしている暇も回収する余裕もない。走り出してからファミレスに入れば包丁があると思ったが、それを料理以外で使いこなせるとは思えなかった。


 振り返ってみれば、明らかにナイフの扱いに慣れた老人は鼻血を垂らしながらゆっくりと歩いてくる。



「逃げるの!? ま、守ってくれるとかないの!?」


「無茶言うな! 刃物付きのナントカなんぞ相手にしてられるか!」



 引いた手の先で喋れるようになった鈴木からの無茶振りに、黙ってくれと思う。


 基本構造なのかパターンなのか、通路は緩いカーブを描いて出口は見えない。登り階段が一つだけ見えたが、うかつに入って行き止まりだったら手詰まりだ。もちろんこの通路が行き止まりでも同じなのだが。せめて背後に老人が見えなくなっていれば脇道を選べるのだが、そこまで通路のカーブはきつくない。


 少しずつ離れていく老人は走る気配もなく、手にしたナイフで壁を削るようにして歩いてくる。それでも歩く気にはなれない。


 こちらが何度も後ろを見ていたせいだろう、鈴木がつられて振り返る。その時に老人が浮かべた笑みは劣情と独善に染まりきっており、猫撫で声が親しげに告げた。



「待っているんだよ。今すぐ助けてあげるからね。そうしたら、いつものように愛し合おう」


「いやぁぁぁぁぁっっっ!!」



 その気持ち悪さに吐き気を催すよりも早く、絶叫が響いた。引いていたはずの手が振り解かれ、半ば突き飛ばすように俺を押し除けた鈴木が全速力で走り去って行く。

 スカートがめくれるとかカケラも気に留めていない、全力の逃走はかなり速い。こちらもそれなりに全力なのだが、どんどん引き離されていく。


 それ以上に離れていく老人は変わらずナイフで壁を削っていたが、その意図を理解して絶望感に襲われた。



 老人の背後に、泡壁が見えた。



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