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【誘引】5回目3


「おい、それ以上近寄るな。俺たちの連れをどうした?」



 近寄ろうとする老人に声をかけても、まるで聞こえていないかのように足は止まらない。



「彼は優しいね。私の連れが階段下で動けずにいると聞いて、助けに行ってくれたよ」



 それでいて普通に返事をするのが、より警戒心を募らせた。両手で鞄を持っても心許ないが、鈴木を盾にするわけにもいかない。

 声もなく中野が消えたことを考えれば、右手にはスタンガンでも持っているかもしれない。鞄でそれが凌げるのかわからず、どうにか距離を取ろうとするが、背後の鈴木はほとんど下がってくれない。


 そうこうしているうちに近づいてきた老人が、少しだけ笑みを深くした。

 その笑みを消して踏み込まれた瞬間。喉元に向かってきたものが反射的に上げた鞄を引き裂き、中に入っていたタブレットPCの表面が削られる音が響いた。

 返す刀で腹に突き刺そうとしたそれを防げたのは、何が起きたのか見ようとして鞄を下げたおかげだろう。左腿の上あたりが熱くなり、ショックで鈴木を押し飛ばすほどに足を引いたらしい。転んだ鈴木の小さな悲鳴とシャッター音が聞こえて、たたらを踏んだ足で鈴木を避ける。


 そこまで至ってようやく、老人がナイフを手にしていることや喉元や腹を狙われたこと、実際に切られていることに気づいた。じりじりと疼くような痛みを自覚すると、そこがしっとりと濡れていることも自覚する。大きく切られてはいないようだが、明らかに出血しているとわかり吐き気がした。



「私の恋人に近寄るんじゃあない、虫螻がっ!」



 いや、吐き気がしたのは老人のその言葉を聞いたせいか。

 明らかに鈴木を指して恋人とほざいた老人はコインを弄ぶようにナイフを指先で回し、倒れた鈴木の開かれた股を凝視していた。

 たぶん、その瞬間に感じた嫌悪感は鈴木のそれが伝播したのだろう。


 気づくと手にしていた鞄を、老人の顔面に投げつけていた。



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