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【誘引】5回目2

「それじゃあ、出口を探すとするか」



 ファミレスの自動ドアを二人がかりでこじ開けて店外に出る。雨上がりのしめった空気は少し肌寒い。通路の空調が稼働しているようだが、乾くまではまだしばらくかかるだろう。

 若干漂う汚水とカビの匂いも、消えるまでは遠そうだ。それよりも鼻が慣れる方が早いと割り切って鞄を片手に通路の様子を確認してみる。台車に乗せようとしてもバランスが取れず置けなかったのだが、こうして久しぶりに鞄を持つと邪魔に感じる。

 簡易印刷カメラにはズーム機能はないためポケットにねじ込んで、携帯のカメラで通路の先を覗く。


 ファミレスを中心にしたT字路の近くには出口らしいものが見えないのは、【地下迷宮】のパターンなのだろうか。台車に乗せた食料もあるため階段を使わずに移動しやすそうな道を選んでいると、突然中野が走り出した。

 ファミレスから左に伸びた道の、わりと近くにある階段。



「倒れている人がいます! 何かあったのかもしれません。助けましょう!」



 そこに向かって迷いもなく走り出せる感覚に驚き、呆然としてしまった。

 無差別殺人鬼がいるかもしれないという話を聞いた後で、何故そんな行動が取れるのか理解できない。


 人助けが必要ならば正しいのだろうが、そうではない場合だってある。そんな可能性を考えてもいないようで、灰色の通路脇にある階段へと消えるのを呆れたまま見送ってしまった。



 中野の姿が見えなくなって数秒後。入れ替わりに階段から姿を見せたのは、蓬髪の老齢男性だった。


 頭頂部だけ薄い蓬髪と鷲鼻が目立つ。右手の拳を背中で腰に添えたようにして少し背を曲げているが、足腰はしっかりとしているように見える。纏っているのは子綺麗な藍色に染まった三揃えのスーツに金のチェーンが伸びたタイピン。

 少し身なりの良いサラリーマンに見えなくもないが多少歳が勝っているし、ダブルターンスタイルのバッジが襟元につけられている。イコールの左に縦線をつけたような記号は、8士業ではない。一般に博士や学者と呼ばれる者がその互助組織に身を置いている証明で、大学の教授や研究者しか持っていない物だ。


 当然一般的には知られておらず、滅多に目にする物でもない。俺も実際に身につけているのを見るのは二人目だった。

 その一人目がくそったれなこともあり、自然と目の前の老人に警戒心が湧く。

 台車を移動して間に置き、後ずさるようにして鈴木を背にして下がろうとする。


 しかし、下がらない鈴木が背中にぶつかり足が止まった。

 首だけ振り返ってみても下がろうとも退こうともせず、人を盾にするようにして背中を掴み、逆の手はカメラを突き出そうとしている。



「あぁ、お二人は彼の知り合いかな?」



 ゆっくりと歩み寄りながら発せられた声は親しげだったが、背中を掴む力は増していた。



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