地下迷宮のファミレス7
だいぶ弱くなった雨音を聞きながら、止んだら出発することを告げる。
台車をファミレスの自動ドアの前に運んでも、鍵がかけてあるのかドアは開かなかった。
待ち席前に並べられた販売小物を眺めて、懐かしいものを見つけて手に取る。
父親が昔持っていたような簡易印刷カメラだ。
デジカメを模しているためかそれよりも随分と小さく、フィルム内蔵式らしい。
ふと思いついて、その簡易印刷カメラをくつろいでいる二人に向けて撮影する。
出力ボタンを押すとその写真がプリントされた。
つい古いタイプにするように、乾かそうと振っていた写真を見る。
一見すると普通のファミレスの様子だが、雨の降る通路がガラス越しに写っていた。
携帯のシャッター音がしてそちらを見ると、何故か鈴木がこちらを写真に収めている。
「データは消えるから撮っても無駄だぞ?」
「そうなの? じゃあなんで写真撮ったのよ?」
いつのまにかタメ口を利くようになった鈴木が不満げに問いかける。その顔を中野が携帯で撮影しようとして断念しているのを見て、なんとも報われない奴だと哀れに思えてきた。
その二人の姿をもう一枚撮り、印刷してそれぞれに写真を渡す。
「こっちのコンビニで買ったタバコは持ち出せた。それなら写真はどうだろうな?」
デジタルの弊害とでもいうべきか、今のデータ保存は大部分が電子機器に依存している。フイルム形式もまだ残ってはいるが、それらの撮影機材を携行する学生や会社員はおそらくいないだろう。
しかし【地下迷宮】で入力された情報は、メアド一つでさえ持ち出せない。そのくせ理不尽なことに支払った電子マネーなどの残高はちゃんと減額される。
物品の持ち出しができるのは、出入りする人間の衣類を残しているためか。そうでないと全裸で駅中に出現する集団が世界中に溢れることになる。そんなことを配慮したのかはわからないが。
「写真が持ち出せるなら、被害の証明になるかもな」
そう言いながら鈴木を写真に収めると、乱暴にカメラを奪い取られた。引き攣った笑みから覗く歯が噛みつこうとしているようにも見える。
「それならみんな持ってた方がいいよね。ほら、中野くんも」
取り上げたカメラを中野に投げつけ、別のカメラを開封して迷いながらこちらに向けてシャッターを切る。
印刷された写真を見た鈴木があまり格好良く見えないとボヤくのが聞こえた。学生から見たサラリーマンなどそんなものだろうが、少し納得がいかない気もする。
中野に目をやれば、印刷された鈴木の写真を大事そうにしまっていた。どこがいいのかわからないが口にするのは野暮だろう。当人に喰いつかれたくないというのもあり、気づかなかった振りで新しいカメラを開封して二人を撮影する。
ファミレスの備品や商品を台車に乗せて店から出ようとしている学生二人という写真は、昔よくいたバカッターを連想させた。
次の話からは、また毎晩1時の投稿になります。
サブタイトルの数字修正(6→7)




