地下迷宮のファミレス6
同時に【誘引】された結果として同じ場所に出ているのなら、近くで【誘引】されれば近くに出ているのかもしれない。
恋人を自称する男がどうやって鈴木を見つけ出しているのか、その程度の予想しかできなかった。そもそも何故【誘引】されているのかさえわかっていないのだ。
通学中に観察されていたことを考えれば、単純に現実でもストーカーと化している可能性もある。そういった意味でも、同じ学校で同じ境遇の中野にも相談をしてみたらどうかと勧めてみたのだが、芳しくなかった。
「んー。いやぁ、中野くん、悪い人じゃないんだけどさぁ……なんていうか生真面目っていうか、真面目バカっていうか。なんか真正面から、それは犯罪だって説教しに行きそうだし。それに付き合わされそうだし。ちょっとねー」
呆れつつ返された答えに、納得できてしまった。
「それに、悪いことしたって知ったら、あっさり手のひら返しそうでちょっと怖いよね。そういうところ、堅そうだし」
正しさに対して融通が効かない、杓子定規な性格なのはよくわかる。そうでなければ路上喫煙を注意するような行動を取らないだろう。
その中野から好意を寄せられていることには気づいているだろうに、評価にはなかなかどうして容赦が無い。
「顔もいいし性格も悪い訳でもないのに、案外評価低いんだな、あいつ」
少しかわいそうに思いながら、話も済んだし脱出準備の手伝いでもしてやるかと席を立つ。
「ふふふ。立ち向かって説教を始めるよりは、必死になって逃げ出す方が可愛げがあるとあたしは思うなぁ」
背後で笑いを溢しながらついてくる気配を感じながら、エゲツない冗談に聞こえないふりで返す。
実際に刃物を向けられて逃げた立場としては、そんな冗談を言う刃物を向けた相手が、どんな顔でそんなことを言っているのか恐ろしくて振り向けない。
そんなこちらの反応を楽しんでいるのか、まとわりつくような鈴木から逃げるようにバックヤードへと足を運ぶ。
生真面目に脱出のために食料などをまとめていた中野が、こちらを見て不快そうに顔をしかめた。
腰に絡みつくように張り付いた鈴木を引き剥がしながら、【地下迷宮】で起こり得る人による危険の話を聞き終えたことを告げる。
詳細を省いて、無差別に殺人行動を取る異常者も世の中にはいるのだと説明すると、中野は毅然とした態度で言い放った。
「状況や理由もあるでしょうし、まずは話し合いで解決できないか試みるべきですね。全く理性がないわけでもないでしょう」
歴史の授業で何を学んだのだろうかと不思議に思いながら、ツッコミのしようがないのでスルーした。
どうやら荷物は整ったらしく、台車に丁寧に箱を積み上げてロープで固定してある。代金とか気にするのではないかと思ったが、ベンダーという概念のせいか非常時には貰っても良いと思っているらしい。自分都合な理屈だが、こちらにも都合が良いのは同じためそれもスルーした。
週末なので次の話は一時間後に投稿します。