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地下迷宮のファミレス3

 自分から喋ったこととはいえ、詳細を聞かれたくはなかった鈴木に気づくこともなく、中野は確認作業に思考がとらわれているらしかった。



「なんらかの手段で連携しているなら、その方法も知りたいところです。危険性がある相手なら、その手段などの具体的なことも知っていれば、対応することもできるでしょう。今はこちらも一人ではないし、対策を講じておくのは無駄にはならないと思います」



 全てを詳らかにするつもりなのだろう。正しいことをしていると思い込んで、その過程で被害者を追い詰める典型例を見ている気分になる。



「よし。わかった。見知った相手には話しにくいこともあるだろうから、詳細は俺が聞いてまとめる。お前はキッチンに行って、数日歩き回っても耐えられるように食料とか必要なものを運搬できるように整えてくれ」



 鈴木が口を噤んだことさえ気づいていない中野を無理矢理立たせ、その背を押す。

 邪魔されるとは思っていなかったのか怪訝そうな顔で立ち止まろうとするのが、少し鬱陶しくなった。



「あぁ、そうだ。オススメの店について話してなかったな。場所と店名と、どんなサービスがあるか具体的に」


「準備してきますから! その話は今度にしましょう! 鈴木さん、すいません、ちょっと席を外します!」



 未だに紹介する店が風俗店だと思ったままの中野に勘違いをさせると、あっさりと逃げ出した。


 こちらの思惑通りに、好意を持つ女の目の前で風俗サービスの説明をされる、という状況を想像したのだろう。

 若干不満そうに振り返るのを追い立てつつ、しかしその想像力の無さに呆れた。


 若くて無力な女が、ただ追い回されるだけで済むはずもない。犯罪者側の反吐の出るような目的が容易に想像できるだろうに、何故そこに考え至らないのか。

 刃物を振り回す姿を思い出しても、怯えているとは考えもしなかったが。

 どちらにしても、無表情になった鈴木を見て詳細を問い詰める気にはなれなかったし、知ったところで嫌な気分にしかならないだろう。

 見知らぬ他人のままであれば気遣う必要もないが、当人が苦しんでいると見知ってしまうとその事実に厭悪を抱かずにいられなくなる。

 性分といえば聞こえはいいが、単に甘さが捨て切れていないだけに思えて自分から促す気にはなれなかった。




「…………」



「…………」




 言葉が出てこない状況が気まずくて、中野がキッチンに入って出てこないのを確かめるふりをして視線を外す。相変わらず雨は降り続けているし、俺たち以外に訪れる者もいない。

 禁煙席ではあったが、コーヒーカップを灰皿代わりにしようとタバコに火をつけた。癒されていると自分に言い聞かせるように、煙を肺に染み込ませる。



「あたし、人を殺しました」



 むせた。



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