地下迷宮のファミレス1
雨音を聞いているうちに落ち着けたらしく、二人は炭酸を飲みつつ腰を下ろしていた。
別のテーブルに座っているのは、お互いに当たり散らさないためだろう。
奇妙に安定した状況を改善するためにも、俺はキッチンへと足を運んだ。単に腹が減っているのもある。
ショールームにあるような冗談のような大きさの冷蔵庫を開けると、インスタント食品が山ほど並んでいた。出来合いのドリアやらパスタやらを適当に取り出して、レンジに入れる。
一応調理も行うための食材や流しなどもあるが、そこまで手の込んだものを作る気にもならない。
本来ならそれぞれに専用の皿などがあるのだろうが、それを探す気にもならなかった。念のため包丁が仕舞われている場所だけは確認しておく。安全のために鍵をかけるという習慣はないらしい。
何かのキャラクター商品が詰まったダンボールが台車に乗っているのを確かめて、冷凍でなくても食べられそうな物の持ち出しも検討しているとレンジの時間が満ちた。温まった料理をトレイに並べて、箸やフォークなどを適当に添える。
店側に戻っても二人は離れたままだったので、その中間の席にトレイを置いてドリアとスプーンを取って離れた。
「なんならキッチン使って料理してもいいし、好きに食えよ」
そう声をかければ、ゆっくりと二人も料理を選んで食べ始めた。
お互いに話もせず、雨音だけが鳴り響く。
そういえば店内ラジオみたいなものがないなと思っだが、有線放送も【地下迷宮】では圏外なのかもしれないと思い、探す気は失せた。
残っていた料理も平らげて、ようやく二人の顔にも血の気が戻る。
「あ、あの。これ」
店内に入った時に落としていたらしい鞄を返却をされ、一応中に名刺入れや社員証、タブレットPCがあるのを確かめる。当然だが風俗雑誌は入っていない。
「ああ、悪いな。また忘れるところだった。とりあえず雨が止んだら、出口を探すとしようか」
流すように適当に漏らした言葉の何が琴線に触れたのだろうか。
鼻をすする音に目を向ければ、両手で顔を覆って涙する鈴木がいた。
反射的に責めるような顔で立ち上がった中野と、泣いたまま頭を下げてくる鈴木を交互に目で追って、こっちも頭を下げた方がいいのかと困惑する。
「本当に、本当にありがとうございます。あなたが、残してくれたおかげです」
涙声で言われたのは、深い感謝の言葉だった。