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【誘引】5回目1

 間の抜けた声を漏らして周りをみれば、地下街にあるファミレスのような店内。そのレジ前で店内を眺めていると自覚して、否定しながら振り返る。



「は?」



 多分、俺も同じ表情をしていただろう。高校生の男女が呆然とした青い顔で、店内を見るともなく眺めている。自分の状況が理解できず、いや理解したくなくて、数回瞬きをしたり詰まりそうな深呼吸をしたりしても、現実逃避ができない。



「どういうことなんですか!」


「俺が知るか!」



 精神的に追い詰まったのか、突然胸倉を掴んで怒鳴ってくる中野を振り払う。鈴木を問い詰めなかった程度には理性が働いたのだろうが、八つ当たりされる身になってもらいたい。ガキ二人の引率をしないとならないのかと考えると頭が痛くなる。


 もう一人のガキは怯えたまま、俺の鞄を抱きしめていた。いきなり刃物を出すという実績のある奴なので、少し店内へと進み距離を保ってから名前を呼んでみる。



「はっ、はい!」



 思った以上に大きな声が出たのか、慌てて周囲を確認して中野もいることに気づいたらしい。少しだけ落ち着いたような、取り繕うような素振りでレジ側へと距離を取る。見知った人間がいれば少しは抑制になるのかと、どうでもいいことを観察して状況を確認していく。


 俺と中野、鈴木の三人は【誘引】被害者だ。それが同時にビルから出たことで【誘引現象】を引き起こしたのか。それが地下ではなくファミレスに出た理由なのか。

 だがそんな推論に答えはない。



「……どうでもいいな。お前ら、とりあえず落ち着いて、ドリンクバーでも入れて好きなところに座れ」



 幸い【地下迷宮】に存在するものは普通のものと大差がない。たぶんキッチンを漁れば普通のファミレスにあるような食材が見つかるだろう。タバコと飯があればとりあえずは困らない。


 タバコの自販機に向かいながら店内を見回しても、観葉植物があるくらいで人の姿はない。

 入口に面した壁はロゴ入りのガラスで埋められて、そこから見えるのは地下通路だった。


 普段の乗り換え駅とも、先日の地下通路とも違って真っ黒い細かい丸タイルが並んでいる。そのせいか通路全体が薄暗い。照明も弱いのか、普段よりも道の先は見通せなかった。

 そんな視界に歪みが起きて、凝視したせいで目のピントが狂ったのかと思ったが、ガラスに水滴が流れたせいだと気づく。



「地下通路で雨って、どういう理屈だ?」



 降りはじめた雨が、ガラスにもぶつかる。通路全体に降っているのか、その雨音は少しずつ大きなものになっていった。


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