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水曜日、帰路3

 

「ふざっけんなテメェ!」



 張り上げられた罵声に目を覚ますと、大勢がこちらを気持ち悪そうに見ていた。

 真っ白になっている頭には、それがなんなのかさえ理解できず、どこにいるのかもわからない。


 しばらくそのまま茫然としていると周りも興味を失ったのか、到着した電車に乗って行く。

 降りてきた乗客たちはこちらに目もくれず、足早に通り過ぎる。



「…………駅?」



 乗降客たちの往来を数度見遣り、ようやく自分がどこにいるのか受け止められた。通勤で乗り換えに使う駅のホームに置かれたベンチに腰掛けている。


 降りたはずの隣駅ではない。

【誘引】されて現実に戻る際の場所は同じなのか。出口もなくどうやって戻ったのか。何故無事なのか。中野も戻ったのか。死んでも戻るのか。

 そんな疑問が矢継ぎ早によぎるが最後に思い浮かんだ問いに、溢れ出した怒りが全部の疑問を吹き飛ばした。



「あのくそったれ! なんであんなどこにいやがった!?」



 清掃機械と壁に挟まれて潰れかけた時に聞こえた声が、最悪の記憶を呼び起こす。

 勝手に家に転がり込んで、勝手に半年も住み込んで、勝手にいなくなったくそったれの涼しげな無表情を思いだす。

 タンス預金と一緒に諸々を持ち出したくそったれが、俺を評するときの言葉。



「キミは本当に不合理だね」



 それをわざわざ伝えて、自分が【地下迷宮誘引現象】に絡んでいると知らせてきた。


 あのくそったれは何をやっているのか、どこにいるのか。

 携帯を取り出して鳴らしても、繋がらないメッセージが流れて勝手に切れる。


 怒りに叫びそうになり、タバコを取り出して火をつける。深呼吸するように煙を吐き出すこと数回。顎を撫でるようにしてタバコを取り上げられた感触が蘇り、梨と蓮が混ざったような香りが鼻に抜けた気がして、タバコを床に叩きつけた。踏み消そうとした足先には、くたびれた靴下だけ。

 拾い上げて押し消すと、頭上から声が落ちてきた。



「ここは禁煙ですよ」



 また中野がケチをつけているのかと、苛立ちに任せて声をかけてきた相手を()め付ける。

 駅のホームにいるという状況も怒りで飛んでいたのだろう。怒りで弾けた理性は、数名の駅員と鉄道警察に囲まれていると理解してようやく戻った。



週末なので次の話は一時間後に投稿します。

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