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水曜日、帰路1

 上司や同僚に午後から出勤するとは伝えていなかったのだが、営業に送ったメールが元でバレたらしく、上司からメールが来ていた。

 仕事に追われる前に一服しようと思っていたが、全休扱いにされた報告だった。


 どうやら【誘引】された奴の傾向として、三、四日目にはキレて暴れることがあるらしい。


 そういえば以前に後輩の部署でそんな騒ぎがあったと聞いたのを思いだした。後輩が殴り倒したという自慢話だったから忘れていたが。




 飲みに行くには少し早い時間。こんな時間に外を歩くのはいつ以来だろう。

 しかし取り立てて寄りたい場所も思いつかず、むしろ帰って寝てしまいたくもある。精神的な疲労が溜まっているのかもしれない。庭木の手入れという選択肢が一瞬過ぎったが、それは自然に消えた。


 昨夜の漫画喫茶に行って本契約をしておこうと思いついて、駅へと向かう。

 駅に呑み込まれるのは、学校帰りの学生と早上がりのサラリーマン。自分もその一人なのだが、早く上がれる彼らが羨ましく感じる。日の出ているうちに帰れる生活を送っていたのはいつの頃までだったか。


 梅雨入りを告げた直後の快晴に、「キミのようにひねくれているな」と囁く声を思いだした。


 思わず顔をしかめてタバコに手を出そうとすれば、再びその声を匂いと共に思いだす。誤魔化すのが下手だと冷静に評する声と、タバコを取り上げる蓮とも梨ともつかない香りの記憶だ。

 そんな声の主の思い出を消したいのかもわからず、しかし人の流れに運ばれてタバコを取り出すこともできずに駅改札へ進んでいく。



 覆い被さる真っ黒い髪に包まれて、無表情に口内まで蹂躙される感触に何度呑み込まれたかわからない。舌を打ち、大きく息を吐いて階段を下っていく。その記憶を誤魔化すうちに増えたタバコがここでは吸えない。

 帰ってこない女の記憶に、いつまで振り回されているのか。

 そんなことを思っても、記憶は捨てられずにいる。



「タバコ吸いてえなぁ」



 呟くように誤魔化しながら、電車に乗った。




次の話からは、また毎晩1時の投稿になります。

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