表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/123

第三者監査3

 犯罪の心当たりと言われて、カッターナイフを構えた女子高生が連想された。



「えー、半狂乱になった人に遭遇して、刺されかけたことがあります」



 現実味のない現実的な恐怖。それを口にする者に男達が向けたのは、猜疑の眼差しと苦笑だった。

 ヘッドセットと手袋からなにかしらの反応が出ているのだろうが、誤魔化しや冗談と思われているようだ。

 体験しないと共感できないのかもしれないが、全否定をされたようで気分が悪い。


 一人がカードリーダーから金属板が取り出すのに合わせ、もう一人は次々と機械の電源を落としていく。


 どうやら聴取は終わったらしいと思っていたら、タブレットPCを閉じようとする手が止まり再び問いが投げかけられた。



「実務上の話で、心当たりはないか?」


「ありていに言えば、横領や背任。機密漏洩などだよ」



 そんな対応と言動で、今更この面談が行われた本来の目的に予測がつく。【誘引】被害者の洗い出しというのは名目で、社内不正の洗い出しをしたいのだろう。あるいは既にその事実が判明していて、都合の良い生贄を選定しているのかもしれない。



「そういうのは心当たりがないですね。他の犯罪としては、うちの上司が他部署の女性社員にセクハラやストーカー行為しているのと、後輩が恋人にDVしてそうな」

「そんなものはどうでもいい」



 上司が更迭されるのを期待したが、全く興味をひかなかったらしく一蹴された。

 睨まれても別に思うところもない。軽口を叩いているつもりはないのだが、猜疑の目ではよく見えないのだろう。片付けをしていたもう一人は仕事が終わったと言わんばかりに、金属板を弄んで退屈そうにしているのに。



「家のローンもあって【地下迷宮】で鞄を紛失したと自称している。疑われているとは思わないかい?」


「まさか。そんなくだらないことに時間と労力を使うくらいなら、のんびり一服します」



 疑念を抱かれる理由があると言ったも同然の問い。そのくだらなさに一蹴して返すと、片付けをしていた方の男から問いが投げられた。



「なるほど。ところでこの社屋は禁煙化が進んでいるため席ではタバコが吸えないね。好きにタバコが吸える部署に異動したいかな?」


「もちろんです」


「うん、今日はご協力ありがとう。異動が叶うかはあまりあてにしないでね」



 そんな言葉と追い払うような手振りに促されて席を立つ。

 生贄探しにわざと協力的な態度を取ってみれば、勝手に裏を勘繰ったのか不快そうに舌打ちされた。

 マスコミやネット、同業他社にリークしかねないヤツは生贄にするよりも飼い殺したほうが都合が良い。そんな思惑をお互いに感じ取り上っ面の愛想笑いを貼りつけて部屋を後にする。



 ずいぶんと無駄に時間を使わされた気がして、タバコが恋しくなった。



週末なので次の話は一時間後に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ