第三者監査1
いつもの蕎麦屋でかき揚げ蕎麦を食べてから会社に戻ると、すでに午後二時を過ぎていた。どうやら漫画喫茶で寛ぎすぎたらしい。
職場に戻ると面談どころではなく仕事に追われるため、受付嬢に面談場所を教えてもらう。
第二会議室のあるフロアまで上がる直通エレベーターの中で、先に一服してくればよかったかと考えながら待つ。
長いエレベーターで営業宛に先程の思いつきをメールして、開いたドアの先を見れば会議室前に置かれた椅子に数名の姿が見えた。
「「あ」」
そこに壁が座っていた。いや、圧の強い女性社員だ。思わず漏れた声が重なれば、他の社員に誰なのか確認される姿を見て気まずくなる。特に親しくもない、他部署の異性である。刃物を隠し持っていそうな相手とは個人的に親しくなりたいとは思わないが、他人の色眼鏡は曇っている。
隣に座れるように席を譲られて、数回の遠慮合戦を重ねたが押し負けた。その社員の良いことをしたと言いたげな顔がむかつく。
「どうも」
「……どうも」
普通に笑顔で会釈されて、この前の圧はなんだったのかと顔がひきつる。
並べられたパイプ椅子を少し離して腰を下ろして、普段見渡すことのない廊下を見る。
真っ白な壁に青い絨毯。背の高い観葉植物。青空の絵がいくつか。両面に会議室が並ぶため窓のない廊下が息苦しくならないようにしているのだろう。個人的には喫煙所があった方が息苦しさは和らぐのだが、世間は愛煙家に厳しい。
一通り視線を巡らせると、もう特に見る物もない。手持ち無沙汰にしていると会議室から出てきた人と待っていた社員が入れ替わる。
どちらも喫煙所で見た顔だ。
携帯を取り出して音楽でも聴いて過ごそうかとして、そもそもここに来た理由のメールを再確認する。
「あんたも【誘引】されてたのか?」
問いかけに、女性社員がうなずいた。
週末まで毎日三話投稿予定です。(1時、2時、3時で投稿予定)




