水曜日、半休で漫画喫茶
日が開けて水曜日。
週五日勤務の折り返しが、これほどまでに遅く遠いと感じたことはなかった。
昨夜、駅のホームで絶叫した後。
ちょうど終電のタイミングだったこともあり、乗り損ねたと思われたのだろう。ホームにいた駅員に諦めるように諭されて、近場の漫画喫茶を紹介された。
精神的に限界がきたのか全く仕事に向かう気にならず、半休申請のメールを飛ばして携帯の電源を切り午前中を過ごした。
漫画喫茶は使ってみるとかなり快適だった。
店員も終電に乗り損ねていることがわかっているのか、初来店だったが面倒な手続きはなかった。再来店用の案内パンフレットが席にあり、目から鱗が落ちる。一通り読んでみるとナイトパックには種類があり平日パックやスリーデイズパック、マンスリーパックなどがあった。
おそらく駅で仕事をする者が使っているのだろう。漫画やコーヒーを取りに行く途中の個室は、大部分が埋まっていた。
夜十時から朝六時までのナイトパックが二千円というのは、調べてみるとだいたい相場通りらしい。
その金額は、普通に通勤していた頃ならば無駄金としか思わなかっただろう。
だが【地下迷宮誘引現象】という事態に直面し、そのリスク回避の代価としてみれば素晴らしく良心的な値段に見えた。タバコ二箱分ではあるが、【誘引】された場合に消費するタバコを考えると安い。
「タバコ吸えて漫画読めてネットできる……天国かここは?」
ここでリモートワークさせて貰えないかと本気で思う。近場の空きテナントを会社で借り上げて設備投資するように陳情してみようか。社員の仕事効率が倍増する、という前提で見積もりを作りたい。営業に回してやれば客相手のネタに使いそうだ。あるいは営業に、漫画喫茶業者周りさせて空きテナント会社との橋渡しをしてマージンを取らせるか。会社名をリスト化しようとして慣れないキーボードの感触で気づく。
仕事をせずにいても、仕事が思考に混ざるのはサラリーマンの性だろうか。
とりあえず知っている営業に打診してやるかと思い携帯の電源を入れると、メールがポップアップした。
「なんかあったか?」
全従業員向けの緊急通達メール。
開いてみれば【誘引】状況の把握のために第三者組織による面談を行うと書かれている。
「なんで今更?」
発生から二カ月も経った今になって、なんの面談をするというのだろうか。
参加必須と書かれているので、仕方なく会社に向かうことにした。
週末まで毎日三話投稿予定です。(1時、2時、3時で投稿予定)




