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【誘引】三回目4

 左脚がかかとを下ろすだけで痛むため、手摺りと壁に寄りかかりながら階段を上がった。


 わずか十段の階段の先には、濃緑色に染められた壁と茶色に染まった柱。その間を灰色のシャッターが埋めたショッピングモールのような場所だった。



 他の乗り換え駅にある地下街に瓜二つの景色だ。

 格子状に敷かれた通路に面して、区画毎にブティックや小物屋、カフェやスイーツ店が集められている。同僚が愛用するスイーツ店もあった。

 店名の書かれたシャッターを見たのは初めてだったが、ロゴはどれも見覚えのある有名店ばかり。

 どこかで休みたかったし湿布や痛み止めも欲しかったが、こじ開ける気力も体力もない。


 ショーケースを割れば店内に入れそうな店もあったが、流石に女性用下着店に乗り込む気は起きなかった。陳列された下着姿に、梨と蓮の混ざったようにほのかに甘い香りと柔らかな感触を思い出す。だがマネキンにそんなものを期待する気はない。他に何か良さげな店がないかと巡っていく。


 オイスターバーの看板には少し興味をひかれたが、アコーディオン式の仕切りで閉ざされているために他の店と同様に入る手段もない。全席禁煙というのがネックだが、いつか現実で店に来ようと営業時間は覚えておく。



 惰性のようにゆっくり進み、三階分が吹き抜けになったモール中央フロアに出た。

 本来なら四機のエスカレーターが左右に備え付けられたホールには、替わりに大きな階段が二つ。

 その上下階に様々なテナントが入れ替わりしている場所で、飲食店がまとめられている区画だ。

 一見する限りでは営業している店はなさそうに見えた。


 中央に吊り下げられた飾り柱に映像を投影させて宣伝やイベントをやっているのを見たことがある。時期によっては柱をマスコットやツリーに変えるらしい。



 そこにあるのは幾つもの長方形を組み合わせた積み木細工のような、カラフルな箱をひとまとめに重ねたような柱だった。

 それぞれが見えないところで繋がっているのか、飛び出したり引っ込んだり、回転したりする箱がある。近代芸術とか現代美術とかいうオブジェなのかもしれないが、正直全く理解はできなかった。てっぺんにウィトルウィウス的人体図のような画風の男女が描かれた金属板があるのが、ますます前衛芸術的に見えた。


 しかし、どこかで見たことがあるように思えてくる。なんだろうかと見つめていると、まとめ買いしたタバコのカートンが連想された。



「タバコ吸いてえなぁ」



 愛煙家にとってタバコ以上の芸術などないのだ。


年末なので週末まで毎日三話投稿予定です。(1時、2時、3時で投稿予定)

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