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泡の壁1

 音が途絶えたことが気になり、振り返って見れば空調設備は半分ほどが壁に呑まれており、その機能を停止しているようだった。



「壁だな。うん。壁……今日は随分と壁に縁があるなぁ」



 昼間にエレベーター内で壁に受けた圧力を思い出す。そんな寝ぼけた感想を抱きながら、歩いてきた通路全てが壁に埋まっているのを眺める。


 天井や避難誘導灯の明かりを受けて油膜面のようなグラデーションを描くその壁は、よく見ると小さな泡の集合体であるらしい。

 目測では秒速二センチ程度。ゆっくりと迫る壁から距離を置きつつ、まとめサイトや掲示板では見なかった現象に少し興味が湧いた。


 残り二本の貴重なタバコを抜き取って、空箱の端っこを泡壁に触れさせてみる。

 腐食などの反応があるのか、確認してみようと思ってのことだ。その場合は泡壁に飲み込まれたら骨も残らない可能性がある。


 接触面を確かめても、泡はついていない。なぞっても、手につくものはなかった。


 数回試してから指先で触れても、水に入れたのと同じような微かな浸食感があっただけで、指先が溶かされることもなかった。それでも飲み込まれてしまえば息はできないだろう。そうなる前に離れようと思い、ふと以前に聞いた現象を思い出した。


 リズムを取るようにタバコの空箱で叩いてみると、泡壁は抵抗感を増した。ダイラタンシー現象だったか。飲み込まれそうになっても、最悪叩きまくれば抜け出せるかもしれない。



 そんなことを考えていたら指先が滑った。



 泡壁の壁面に張り付いた空箱は、落ちることもなかった。

 ついでに飲み込まれた空箱が取り出せるのか試してみようかと、沈むんでいくのを眺める。

 おそらく飲み切った一瞬だけ、泡壁の侵攻が止まったと思う。



「お、おおっ?」



 だがその次の一瞬。


 その浸食速度を、秒速タバコ一箱分に上げた泡壁が、その速度のまま迫ってくるのを見て軽く驚きの声が漏れた。

 秒速でおよそ九センチ程度なら、歩く速度よりもだいぶ遅い。


 おそらく【地下迷宮】の清掃機能なのだろう。

 他に特に見るようなものがない地下通路の、ちょっとした暇つぶしを見つけた気分になる。

 まとめサイトに情報を書き込んでおこうと思って携帯を取り出したが、やはり圏外表示は強固だった。



 通路を進んでいけば、また空調設備が風を吹き出している。

 振り返ると変わらず浸食を続ける泡壁が、張り付いたホコリに触れたのか一瞬止まった。ホコリを呑み干した泡壁は、更に速度を上げているように見えた。


 格子模様のように整然とした通路の床模様を目安にして、目測で三割増しくらいだろうか。

 ふと気になって、携帯の電卓機能を使う。

 空調設備を泡壁が超える度に速度が上がるならば。



「えーと…十二回で時速五キロ。ははっ、二十回で時速四十キロ超えるのか」



 その計算結果に思わず笑いが溢れてしまう。

 果たしてこの一本道の通路が終わるまで、何個の空調設備があるだろうか。



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