【誘引】三回目2
二日間の往路復路という四回のうち三回。確率で言えば冗談のようなその頻度。
「野球だったら首位打者になれたな」
そんな軽口を叩いて、二つの事実から目を逸らし続ける。
一つは乗り換え駅を使ったのが三回で、現状全回【誘引】されていること。
もう一つは売店で襲ってきた女子高生が売店にいる可能性があること。
売店の中に鞄や充電ケーブルが残されている可能性も一つの事実だが、それは肯定的なものだ。既にケーブルは購入したが他の物は出来るなら回収しておきたい。
直視できない否定的な事実から逃避するように、野球のスイングを真似しながら売店へと歩いていく。
「野球選手なら年俸で数億もらえるよなぁ。あ、そうだ。宝くじを買おう。万が一っていうのがこれだけ重なって起きるなら、宝くじだって当たるもんだよな」
そのくらいの見返りが欲しいと思う反面、見返りがなくていいから【誘引】しないで欲しいとも思う。
そんな軽口は地下通路を渡って空調設備に吹き消されていく。
もはや見慣れたT字路にある駅中売店にたどり着いて、ガラス越しに店内を見渡してみても動いているものは何もない。いつも通りか、と感じた意識が大分【地下迷宮】に毒されているのを感じる。
酒と共に楽しんだタバコがもう二本しか残っていない。口寂しさをこらえながら、タバコの陳列棚を見ながら自動ドアの前に立つ。
「ん? 故障か?」
全く開かないドアにぶつかりかけて、ガラスに手形をつけた。顔から突っ込まずに済んだのは不幸中の幸いか。
常連化している蕎麦屋のスライドドアのように、自動ドアの隙間に手をかける。
「っく! なんだこれ? 鍵かかってんのか?」
自動ドアに鍵があるのか知らないが、微動だにせず開かない。
何か引っかかっているのかとドア周辺を確かめても、ドアの底部に鍵穴があるのがわかっただけ。
「マジで鍵か。…………っ!」
その意味に気づいて、慌てて走り出す。
内側から鍵をかけている可能性。つまり店内に誰かがいる可能性だ。
真っ先に連想されるのは、カッターナイフを持った女子高生だった。