火曜日の喫煙所1
若さという眩さと湿気の多さにあてられて昼飯から戻ってくると、同僚が忙殺されると嘆いていた。
同程度の仕事量がある自分の仕事を片付けながら、軽く手伝ってやる。以前なら同様に嘆いていただろうが、【地下迷宮】で受けたストレスに比べたら鼻歌ものである。精神的に図太くなったというよりもキャパシティがバカになったのかもしれない。
企業間の仲介業者であるうちの仕事は雑多だ。処理すべき書類も取引先に合わせる必要があり、どうしても煩雑になる。それでも人間は慣れる生き物で、鼻歌交じりに片付けていく。
それでもタバコが恋しくなるようなメールが来ることもある。
上司からの保留という端的な返信に、ダメなら辞めるぞと返しておく。毎日肋骨が軋む満員電車で通勤していても、命を賭ける気は全くない。
社員も派遣社員もバイトも問わず全員に通達されたメールもあった。
「ルームシェアの強要は厳禁とする、ね」
後輩の提案とは逆に、部下に家に住まわせろと強要して乗り込んだ奴がいたらしい。果たしてそいつにとって在宅勤務指示が罰になるのかわからないが。
リモートシステムの構築が可能ならば、【誘引】に限らず出社日対応も検討するというのは、この会社の柔軟なところだろう。
そしてそれが適用されないのがうちの部署と上司の使えないところだ。
「区切りつけたから、タバコ行ってくる」
そんなストレスはタバコの煙を恋しくさせる。
今週に入ってから喫煙量が激増しているのを感じながら、口寂しさに舌を這わせた。まだ火曜日になったばかりなのに、すでに一週間分のタバコが煙に変わっている。
エレベーターが上がってくるのを待ちながらホールの外から街並みを見下ろせば、見える景色はいつもと変わらない。
団地もあれば公園もある。コンビニは三種類。子連れの主婦が雑談している横を、授業が終わった学生たちが通り過ぎていく。
そんないつもの風景に、背筋が寒くなった。
あの女子高生と同じ制服にカッターナイフの鈍い光がかぶる。めまいすら覚えながら、ようやく開いたエレベーターへと乗り込むと先客に声をかけられた。
「……どうも」
喫煙所で後輩に熱い視線を送っていた女性社員だった。