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火曜日、蕎麦屋で昼飯

 日が開けて火曜日。


 昨日【地下迷宮】に鞄が置き去りになったため、通勤は手ぶらだった。昨夜コンビニで買った携帯用充電器に若干の違和感を覚えたが、使えれば問題はない。


 出社するにあたり、いつもより一時間早く出たのは掲示板で見つけた【誘引】回避方法を実践するためだった。


 他者の体験談として書かれていたそれは、乗り換え駅の手前で降りて、乗り換え駅の次で乗るという方法だった。普段使う乗り換え駅に行かなければ【誘引】されないだろうという推測である。


 慣れない駅で降りて、不慣れな道を歩いたため、乗り換えが済んだ時点で遅刻が確定していた。

 しかしその行動が身を結んだのか、【誘引】されることなく無事に会社へとたどり着けた。



 回避できた達成感に、職場に顔を出さずにそのまま喫煙所で一服しようとしたのは失敗だったが。

 まさかそこで上司に捕まるとは。おかげで一服できないまま午前中は仕事漬けである。

 タブレットPCが無いため空いているデスクトップPCを借りたが、普段から同僚とフォーマットをやり取りしていたため、どうにか無難に捌き終えた。

 乗り換えの不要な別社屋の部署への異動願いと退職届も作成済みである。とりあえずは異動願いだけ上司にメールして席を立つ。



 昼飯を食べに駅前の蕎麦屋へと歩きながら、昨夜駅員から教えてもらったサイトを調べる。

 鉄道会社が【地下迷宮誘引現象】の窓口として作ったサイトで、【地下迷宮】関連の項目が羅列されていた。

 その中から【遺失・紛失届】の項目を選んで、メールフォームに必要項目を入力して送付する。

 天ざるに舌鼓をうちながらサイトを見て回ったが、腹が膨れる以外に成果はなかった。被害者数さえ明記されず、具体的な危険性も対応策も書かれていないのがわかっただけだ。

 政府広報のサイトでは発生件数が増加し続けているという記載が半月前にあったが、実数はやはり載せていない。そのせいで自分が【誘引】されたのかと嫌な気分になり、蕎麦湯にワサビを溶いて飲み下す。



「ごっそさーん」



 店員に軽く挨拶して店を出れば、梅雨が近くなって張り付くような空気に包まれる。

 午後になったらいつもの時間に喫煙所に行き、後輩に相談をしよう。

 こちらの家と後輩の彼女の家をお互いに貸し会えば、お互いに損はない。

 こちらは安全に通勤できる。後輩の部署で設定されている、社用車で通勤可能な距離を超えるだろうが問題ない。電車通勤して【誘引】されれば、後輩の希望が叶うのだから。

 他人の生活臭が混ざれば、捨てられない記憶が染み付いた家も手放せるかもしれない。ローンは残るだろうが。


 せめて同居人に一言伝えておきたかったが、電話は繋がらなかった。



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