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月曜日、帰路の駅ホーム

 千鳥足のサラリーマンを引きずり倒してマウントをとって殴りつける、なんてことができるわけもなく、ホームベンチに座ったまま電車が走り去るのを見送る。


 衝動に近い苛立ちに頭痛すら感じ、食いしばっていたことに気づいた。

 なるほど、【地下迷宮誘引現象】という非日常の本質を体験してみれば、後輩に優しくないと評価されたこともうなずける。集団リンチになろうとも、【誘引】されたいと笑った後輩を助けてやる必要はなかった。


 握り続けて痛みを感じる手を開いて、少しずつ身体全体をほぐしていく。

 そんな様子を見ることもなく、大勢の客が行き交う。




 三本目の電車を見送って、それでも【誘引】された乗客がいたようには見えなかった。

 体験した限りではホームに両足がつくと【地下迷宮】に転移するのだが、消失することなく改札へと流れていく。

 目撃情報は無いのかと携帯で掲示板などを検索しても、見つけられなかったという体験談と真偽不明の与太話しか出てこない。

 諦めてアプリを閉じて、ため息が喉に詰まってむせた。手から滑り落ちた携帯を拾い上げ、画面を再確認してもひび一つない。



「そういや、ヒゲも伸びてなかったな」



 顎を撫でながら立ち上がり、ベンチを見る。残念ながら鞄は見当たらなかった。

 とりあえず上司にメールしておく。



「帰社途中で【地下迷宮】に【誘引】されて現地で女子高生に襲われたせいで会社支給のタブレットPCと社員証を鞄ごと失くして回収不能です……っと」



 体験したことをそのまま書いているのに、妄言以外の何物でもない。

 減給されるようなら辞めてやろうと思いながら、停車した電車に乗降する人波を見る。

【誘引】されている駅員がいるなら、伝えておけば回収してくれるかもしれない。

 そんな期待とも言えないことを考えながら、降車した人波に呑まれた。


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