最低の結果4
どうやら【地下迷宮】で人を壊すことはしても、通路を壊すことは少なかったらしい。
いまや後輩は石の中にいる。はみ出している右足と左腕で足掻いても、そこから出て来れそうもない。水面に浮いたように前面がのぞいているが、左足と右半身のほとんどが完全に沈んでいる。
左腕が折れていなければ踏ん張って抜け出れたかもしれない。
「あの……先輩? マジで全然動けないんすけど。これじゃ楽しめないじゃないっすか」
「あ? こっちは最初から楽しくねぇよ。少し頭冷やせ」
後輩が埋まる床に腰を下ろしたまま、後輩の嘆きにこちらも嘆き返す。
だが本当に深い嘆きは、言葉などでは表せないのだろう。何も言わずに後輩の頭を見下ろす、彼女の顔は見えない。ただその手にあるアーミーナイフが、刃先を揺らして迷いを伝えていた。
その視線が逸らされないことに、多少は気まずさを感じたのだろうか。
「酷いことを言ってごめんな。本気じゃないってわかってくれるだろう? 俺が愛しているのはお前だけだよ。はしゃぎすぎて、心にもないことを言ってごめん。お前がいないと俺はダメなんだよ。だからお願いだ。俺にお前を愛させてほしい。ここから解放して、俺にお前を抱きしめさせてほしいんだ」
その声音はとても優しく、視線も真っ直ぐに逸らさない。
これまでにも何度となく繰り返していたのだろう、暴力後の愛情表現。それが強制的に依存させるための行為だと、彼女もわかっているのだろうか。
「お前だけが俺の一番なんだ。お願いだ。愛しているんだよ」
涙声を出して語る後輩の声に、彼女からかすれた声が漏れる。肩を震わせているのが悲しみなのか恐怖なのか愛情なのか。それは当人にもわかっていないのかもしれない。
「ねぇ……このままだと、どうなるの」
「ここは破損もあるし、廃棄するからね。餓死するまでそのままだね。暇になったら作り直すから、そこまで生きていれば自由になるかもしれないが」
涙を拭いながら、かすれ声が尋ねる。
答えたのは壇上からではなく、近くにいた量産型くそったれだった。
その答えに満足したのか、うなずいたパンクがアーミーナイフを握り締めた。
刃物を目の前に突きつけられた後輩が再び並べ立てる愛に、パンクが笑みを返す。
「あたしの一番を上げるね。全部忘れるから。一番愛しているって、今度はちゃんと騙し通してね」
次の話からは、また毎晩1時の投稿になります。




