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 上がった悲鳴は後輩のものだった。


 首を絞めつけていた右腕が離れて、視界と呼吸がクリアになっていく。

 背中に負った後輩の重みがなくなって、背中を突き飛ばされた。抑えていた左腕が引き抜かれて、掴んでいた手がそのまま引かれる。


 必死に息をしながら振り返ると、右手の裏拳でパンクを殴り倒した後輩が見えた。

 後輩の背中を浅く刺していたアーミーナイフがその衝撃で落ちる。しかし後輩は刺された痛みなど無視するように、長机に打ち付けられたパンクへと蹴りを振るう。



「楽しみの邪魔すんなって! 何度躾けても忘れやがって!」


「…………そうか。邪魔するぞ」



 叫びながら蹴りつける後輩の胸倉を掴み、左腕を掴み直す。身体を反転させて腰をぶつけながら、思い切り掴んだ腕を引く。既に握力がほとんど尽きていても、前方宙返りをするくらいのつもりで足腰を跳ね上げさせる。意外と身体は昔のことでもちゃんと覚えているらしい。


 高校の授業以来、やる機会など全くなかった一本背負いは自分ごと後輩をぶん投げた。


 長机にぶつかる音と、水に落ちる音が同時に聞こえる。

 胸倉から外れていた右手を長机に置いて、背中で暴れる後輩の右腕が出てこれないよう隙間を埋める。左手も掴んだ腕が暴れるのを抑えようとしたが、どうやら既にすっぽ抜けていたらしい。慌てて目で探すと、ありえない方向に曲がった後輩の左腕が長机の上を引っ掻いていた。



「どけよテべッ、沈むっ、ちょっ、先ぱっ」



 背後で喚く後輩に後頭部で頭突きを繰り返して黙らせつつ、左手で長机を掴み、同様に足も踏ん張る。

 ふと一本背負いの手が左右逆だったと思い出したが、今更どうでもいいことだ。


 背中で抑えた後輩の呼吸と、僅かに腰に浸った泡壁が固まる感触が気持ち悪くて、少し強めに頭突きした。弾かれた後輩の頭が床にぶつかる音がする。



 しばらくその感触に耐えて、降ろした腰が固い床に支えられるのを確かめる。身体を起こすと引き剥がすような音を立てて、細かい破片が落ちた。


 嫌悪感と疲労を払うように肩から背中へと手で払い、振り返る。頭突きを繰り返した後頭部に触れると、粘質な感触がして嫌気がさした。



「先輩……なんすか、これ?」



 歪んだ鼻からは鼻血を流し、弱々しい声を漏らす。

 長机の隙間を埋めて固まった泡壁の表面。

 身動きが取れなくなった後輩の顔に、笑みはもうなかった。


週末なので次の話は一時間後に投稿します。

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