【誘引】二回目3
案内窓口へと至るために、壁際に張り付くようにしながらゆっくりと階段を降りて、通路の先へと目を向けてみる。
当たり前の話だが、地下通路に障害物はほとんどない。毎日通勤ラッシュが横行する場所にそんなものがあるはずもなく、そのため視界は奥行き深く広がる。
通路は緩やかにカーブした一本道。案内窓口への方向が書かれた案内看板には、乗り換えや出口の案内はない。
携帯を取り出してカメラのズームで奥を確認しても、通路で動いているものは何もなかったことに少し安堵する。拳銃を持った警官が暴れている可能性がないとは思うが、女子高生がカッターナイフで襲いかかってきた場所だ。油断は禁物だろう。直線で狙撃されたら逃げ場もないのだから、慎重になるのも当然だ。
ズーム越しに動くものがないことを確かめながら、少しずつ通路を進む。案内窓口がどれだけ遠くにあるのかわからないのがつらい。今は水も食料もないため、変化がなければ諦めて他の道で売店や自販機を探すことも考えながら、それでも案内窓口を目指して歩く。
だが、警戒心など恐怖心が薄れればほとんど続かない。いつのまにか無意識に取り出していたタバコを吸い、フィルターが焦げそうになった頃に変化があった。
しまっていた携帯を取り出して見れば、階段を下りてから一時間弱。
他の乗り換えなどの表示もない案内看板が、この先に案内窓口があると表示している。その先に現実の駅にもある案内窓口と同じものが見えた。
地方出張で利用する施設はいつもなら大勢の順番待ちができているが、行列も人影も見えない。
念のためズーム越しに中の様子を伺えば、普通に明るいカウンターと、地下路線公社の会社ロゴが見えた。
現実であれば営業時間外だろう、日を跨ぐ時間が浮かぶ携帯をしまう。
今朝の通勤で出口に至るまでにかかった日数を思えば、案内窓口までの距離はすぐそこと言えるほど短い。田舎民の距離感に共感しながら、吸い寄せられるように歩く。
しばらくして自動ドアの前に立つと、案内窓口特有の入室音が流れる。
中へと入り見渡せば、サービスカウンターで仕切られた部屋の手前に待ち合い用のソファー、観葉植物、旅行パンフレットの詰まった棚などが視界に入る。
仕切りの向こうカウンターには発券用の機械や端末、時刻表の冊子があるだけの狭い個室。
その奥にあるドアが開く事もなく、人影もない。
仕切りガラスをノックしても呼び鈴を押しても声をあげても、誰も出てこない。
なんだか酷く無駄な労力を払ってしまった気分になる。
ため息を漏らして再度見渡せば、要望書の投函箱とそのための紙が無造作に置かれているのが目に入った。
週末なので次の話は一時間後に投稿します。