最低と最悪6
どうやら少し、そのまま寝落ちしていたらしい。
響き渡る怒声にびくりと身体が震えて、しゃがみ込んだままの背中と首が軋む。
先程までの乱闘の疲労感は抜けきっておらず、長机を支えにして立ち上がると叫んでいる後輩が見えた。
その手には俯いて縮こまるパンクのカラフルな頭。
「お前を一番愛してるのを、疑うとかありえねぇだろ!」
そう言いながら平手打ちをし、パンクの頭を長机に叩きつける。
「目の前に最高に楽しめる相手がいるのを、邪魔してんじゃねぇ!」
それだけではなく更に蹴りを入れたのだろう。吹き飛ばされたパンクの身体が階段を挟んだ長机にぶつかり、崩れ落ちて見えなくなった。
それをやった当人は俺の姿を見つけて嬉しそうに笑みを浮かべる。前歯と鼻を叩き折られても楽しいとしか思わない奴の相手は、正直もう勘弁してほしい。
「先輩! あのクソ女ぁ、アンタのなんだろ! おいクソ女ぁ! 何度でもヤってやるからさぁ、先輩に情けねぇ悲鳴聞かせて、そのツラぁ歪めて、最高に悦ばせてくれよぉ!」
長机の上で壇上へと振り返り、後輩は平然と座っているくそったれへと向かって下り始めた。
これまでの人生で出会った中で、二番目にろくでもない性格。そんな後輩に対して出来ることは少ない。仕事や職場環境なら不具合がないように取り計らえるが、こんな場所で現実的な話など何の意味もない。
先程のように殴り合いをする方がわかりやすいと思いながら、くたびれた身体に鞭を打つ。放置したままの背負い鞄からタバコを取り出して歩き出す。
その楽しそうに長机を渡り歩く背中が、無邪気な子供のように見えて哀れに思えてきた。
「そいつに絡んでも、ろくなことにならねえぞ? おとなしく恋人に頭下げて帰れよ」
離れていく後輩の背をそのままに、俺は倒れていたパンクの様子を確かめる。乾いた鼻血の跡がまばらに剥がれて青黒い痣が見えた。死んでいないことには安堵できたが、その全てを覆うほどに泣き濡れているのを見て少し迷った。
「なぁ、火ぃ持ってたら貸してくれ」
それでも、タバコが吸いたくてそう言った。




