最悪
意識を失って倒れ込んだ後輩が生きていることを確認して、疲労感にため息が出た。
長机に腰を下ろし、倒れているパンクに目を向ける。顔中が血に塗れているのは、鼻血がついた拳を打ち込まれたためだろう。鼻と耳を繋いでいたチェーンピアスも引きちぎられたのか、ピアス跡が裂けているようだった。
床と拳で打たれた頭が朦朧としているのだろう。伸ばした手が何かを掴むように避けるように、緩慢に動いていた。
とりあえずは二人とも生きているらしい。
それが確かめられて安堵したが、溜まったストレスも自覚する。吐き気がするほどの苛立ちに手が震えて、タバコを求めて彷徨う。
だがタバコをしまった背負い鞄は、どこかの長机の隙間に置いてある。しかもライターがない。
そう思ってパンクが火炎瓶に火をつけていたのを思い出す。予備はあるだろうかと思ったが鞄を持っていなかった。まさか身体を弄って探すわけにもいかない。
立ち上がって背負い鞄を探しながら、長机の上を歩いて登っていく。
少しして見つかった背負い鞄を拾い上げて、壇上へと声をかけた。
「なぁ、ライター持ってないか?」
「ボクは吸わないよ」
壇上の机に座って、こちらを見る無表情。
その姿を見れば先程の光景が冗談のように痕跡もない。
「さて、【おとない】と人間に利用しあう関係が出来上がったわけだ。【地下迷宮】だけでも利用価値は多いが、重要なのは【箱】という本質だ。今は人間を対象とした病理根絶のシステム化を目指す段階でしかないが、いずれは生物的インベントリによる絶滅種の復興も叶う。理論構築が叶えば現実にゲーム的インベントリを個人で扱えるように」
「おい、待て。もういい。腹一杯だ。一息つかせてくれ」
そしてまたつらつらと語る声が無表情から流れ出す。
死んでも【地下迷宮誘引現象】は無かったことにして生きた状態で現実へと返している。
その【現象】を起こしている【おとない】の協力者が【地下迷宮】で死んでも同じことになると、理解はできる。
理解はできるが、納得はいかない。
「なんでそんなにいつも通りなんだよ……くそったれ」
うなだれるほどの疲労感に顔を抑えるようにして支える。
どうしようもなく滲んでいく視界を、両手で塞いだ。




