最低と最悪4
「現象としての【おとない】はシュレディンガーの猫における【箱】を考えてもらえればいい。【箱】の中の変遷に拘らないことは【おとない】が観測者であることの影響だ。キミたちが今感じているだろう身体的な活性や病質の変異はそれを利用している。全人類を検体とできる【地下迷宮】だからこそだな」
膝の皿を割るような蹴りを、長机の下を掴んでテコのように上体を起こして躱す。
空振りした左足が流れるのに任せた奴の軸足が長机から離れる。反射的に寝そべると頭があった箇所を右足が蹴り抜き、左足が入れ替わりに長机を踏みしめた。再び上体を起こしたこちらに小刻みな蹴りを出してくるのを、いなしたり躱したりしながら足の方へと前転して立ち上がる。
「ここでいう【箱】の定義が時空間に限られていないのはキミたちも経験しているから、説明は省く」
長机の間にある階段で振り返ってみれば、奴が長机の端から放った喉元への足刀蹴り。それを身体を逸らしながら十字受けで上へと流す。
それでもまた軸足が飛んできた。ブランド名が刻印された靴底が顔面を踏み抜くように迫るのを、そのまま数歩下がって距離を取る。
奴が階段に着地して一拍。体勢を整えるまで間があったが攻められず、下がった足を止めて息を吐いた。
週末なので次の話は一時間後に投稿します。