最低と最悪3
「この国では【おとない】と呼称している。金属板やレコードを拾ったが届ける相手が見つからず、情報伝達のために世間で言う【地下迷宮誘引現象】を起こした。模造した金属板を与えているが、人間は情報伝達物質に過ぎない」
つらつらと語る口調に淀みはない。
それを聞きながら伸ばした右手が、後輩の左手で払われた。
アッパー気味に鳩尾に向けられた右拳を左手で止めきれず、身体が押されて右足が長机から落ちる。
左手で受けた拳を掴んだまま、流された右手を戻しその手首を掴む。奴の右手首をねじりながら長机から落ち、その隙間に倒れるようにして掴んだ腕を引く。
「だが【誘引】時に互いを排滅させあうのは人間の死も【おとない】の認識では伝達手段であるためだろう。それでも現実を保つために全人類が生かされている」
右腕を引き剥がすよりも身体が倒れるほうが先になって、奴は一つ下に並ぶ長机に左手を着いて支えた。剥がされた奴の右手には拘らずそのまま背中から床に落ちて、両脚を抱き寄せる。背筋を支えに全身を伸ばして両足を突き上げた。
鳩尾を庇った右腕と腹部に両脚を打ち込み、そのまま蹴り飛ばす。その反動が奴を元の長机に押し戻したが、少しよろめいた身体の上で笑うようなツラが見えた。
「楽しいっすねぇ! 先輩!」
生憎とこちらは全く楽しくないし、身体を動かすのに手一杯だ。
言葉を返す余裕もない俺の代わりでもないだろうが、壇上からは変わらず平然とした声が流れてくる。
週末なので次の話は一時間後に投稿します。




