最低と最悪2
気付いた時には壇上の机に座っている彼女の腹から、アーミーナイフが生えていた。
「ヤられてからまた【迷宮】に来るのが早えんだよ! また肝を抜かれてヤられてぇのか!?」
ナイフを投げた後輩の罵声を聞きながら、やはりあれは後輩が楽しんだ結果だと思い知る。
そうでもなければわざわざ死体を積み上げて椅子代わりになどしないだろう。
再び殺されようとしている彼女から目を逸らせず、だが駆け寄ることもできない。踏み外すようにして階段一つを足が下るのをもどかしく感じ、身体が震えているのだと気づく。
だが。
「……死ぬまでは時間があるね。とりあえず紹介を済ませようか」
机が血で濡れていくのを構うこともなく、落ち着いた声が事もなさげに告げた。
内臓に達しているだろうナイフをそのままに、痛みに顔を歪めることさえしない。
命乞いをするような奴ではないのはわかっていた。平然とした様子に無事なのかと望んでしまう。
しかしくそったれな無表情は微動だにせず、ショックと失血によるものか少しだけ青白く見えた。軽くむせてシャツの袖を下ろして口元を拭うと、その跡が赤黒い血で染まる。
「ははっ! 今度はのんびりと死ねよ、クソ女!」
後輩が吐き捨てた言葉が抉るように深く刺さって、黙らせたくなった。




