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最低と最悪1

 連絡が取れないことへの不安。

 帰ってこないことへの心配。

 この【地下迷宮】にいると知った驚きと、【誘引現象】の原因かという不審。

 再び出会えることへの期待と、死体を見つけた時の絶望。

 その死体の言動が全くそれらしくないことで芽生えた不信と。

 ……らしさ全開の態度への、怒りと、安堵。



 それらを伝えるには、言葉はあまりにも不十分なものだった。

 だからと言って野良猫のように寄り添うには抵抗が勝る。暴力という後輩の伝え方を拒否して残ったのは、悪態を溢してそこに座ることだった。


 長机の間の階段に腰を下ろして背負い鞄からタバコを取り出したが、ライターを忘れてきたことに気づく。

 タバコを咥えたまま戻す気になれず、少し離れた場所にいるくそったれに目を向ける。



「火はつけないほうがいい。また修復対象に選定されるよ」



 平然と言われた言葉に、思わず食いちぎりかけたタバコを吐き捨てた。

 警告でも注意でもない、わかり切ったことを教えるような物言い。

 なんの説明もいらないと思っているように、こちらを向きもせずに手元作業を繰り返す姿は、全くくそったれそのままだ。


 頼んでもいない禁煙治療を受ける理由はない。だが、例えば老人の心臓疾患を治す理由があったとも思えなかった。

 そもそもこのくそったれがタッチパネルで何かをしでかしているのだとしても、【地下迷宮誘引現象】という異常事態ありきの話でしかない。



「……なんでこんなことが起きてんだ」


「ん? そういえば挨拶に答えたのはボクが最初だったか。それを何度も説明するのは面倒だね」



 タッチパネルを弄り終えたのか、軽く伸びをして階段を降りていく。

 こちらもそれに倣い立ち上がろうとしたが、何か落下した音に驚きそちらをむいた。


 長机と階段にわたり逆さまに倒れているのは、パンクだった。修復されてここに出てきたのか焼け焦げたような痕は見えないが、意識がないのか動く様子はない。


 そこよりも数段上の長机には後輩が立っていた。状況がわからず辺りを見回していた目がこちらを捉えた。手にしているアーミーナイフをこちらに向けて、楽しげに笑みを浮かべる。


 それでも周辺確認を優先する冷静さがあるから質が悪い。


 しかし流石に自分が椅子代わりにしていた死体が、平然と歩いているのは予想外だったのだろう。

 固まって動かなくなった後輩を見て、こういうのを幽霊を見たような顔というのかと思う。


 その視線の先を辿ると、演壇にある円形の机に腰を下ろしオブジェに背を預けたところだった。



「そこの彼、机の上に立たないように。そこの彼女も足を下ろして……寝ているならいいか。さて、まずは紹介からするべきかな」



 他人の反応など全く気にしない、いつもの行動に呆れる。

 だがその平然とした態度が後輩には恐怖だったらしい。


 錯乱した後輩を止める暇もなかった。



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