最低と恋人8
恋人という存在を焼き捨てて、後輩がもう一つの大階段へと走り出す。
ろくでもないやつだとわかってはいたが、ここまでとは思っていなかった。
そんな思考はそのまま逃避を始めて、全く違うところに意識を集中させる。
手にしている金属板の上を弄る指先は自分のものとは思えないほど滑らかに動いた。オブジェの上部と手元の金属板の違いを正していく。
それだけに集中していく意識は現状把握を放棄して、普段通りの態度をとらせた。
「火がデカいし遠すぎる。タバコの火も着けられねぇのか」
大階段で燃える炎を見ても、会社の喫煙所にいるように嗜める言葉を後輩へと投げ捨てる。
「はっ? ……は、ははっ! あははははっ! スゲぇよ先輩! 最高にイカれてんよ!」
大笑いしながら振り下ろされた腕が、大階段の手摺りにスタンロッドを叩きつけた。その衝撃音に身体が震えて、飛んでいた認識が返ってくる。
素晴らしくゴキゲンになった後輩が、狂犬のような笑みで睨んでいた。大階段を駆け上がってくるのが見えて、飛んでいかない意識が恨めしくなる。
唯一の救いは手摺りにスタンロッドがめり込み、後輩が手放したことだろうか。
完全にテンションが振り切れた後輩が恐ろしくて目を逸らし、先程まで集中していた金属板を見る。
完全に一致している図案を見て、どこでもいいから飛ばしてくれないかと願うように手を合わせた。
結果を言えばそれは叶ったのだが、本当に最悪なくそったれの結果が待っていた。