帝国の魔法少女
帝国が魔法少女を戦争に用いた侵略を行っていることは、国際社会において有名な話である。
だが魔法少女の軍事的利用を大陸会議は禁止されている。
五十年前、これが決定した会議に帝国も参加をしており、帝国を含めた五大国の全てが賛成の意を表明していた。
しかし数年前に帝国は対外的な皇帝の代替わりを発表すると同時に、周辺諸国への侵略を開始した。
最前線に立っていたのは軍人ではなく、年端もいかない魔法少女たちであった。
大陸会議の決定を遵守していた小国たちは瞬く間に併呑されていった。
そして北方の覇権を確立した帝国は、東の大国である共和国にその魔の手を伸ばしていた。
◇◆◇◆◇◆
――先行し敵を撃滅せよ。
帝国と共和国との間に広がる大草原を進む、二〇人弱の少女たちに帝国軍が与えた命令だ。
その中にミオは……いや、三〇はいた。
「敵って誰なんだろ? ミオ知ってる?」
三〇の傍らに立つ黒髪の少女、三七が抱き着きながら聞いてくる。
「知らない。それに必要ない。あとミオじゃない三〇。変な呼び方しないで」
その答えが気に入らなかったのか頬を膨らませなが他の娘たちに目を向ける。だがみんなそろって三七の視線から逃れるように身を小さくする。
彼女たちも知らないのだ。
だがこれは連絡の行き違いや、不備があったわけではない。
帝国軍が教える必要がないと判断した、それだけである。
それに関し彼女たちも不満があるわけでもないし、ましてや知りたいとも思ってはいない。
三七も本気で知りたかったわけではないだろう。
身を小さくした娘たちと違って三七は一年以上も戦場で戦い続けている。
そのことを知っているがゆえに三〇も適当な返事をしたのだ。
「つまんなーい。もっと話そうよ、これが最後かもしれないし。ね、ミオ?」
「……三七、ミオじゃない三〇」
「…………」
「三七?」
あれだけ話そうと喚いていた三七が急に黙り込んだ。
何か不測の事態でも起きたのかと思ったが、少し不機嫌そうに、何事もなく隣を歩いていた。
「三七どうしたの?」
「………………三七なんて知らない」
またか、と三〇はため息をはく。
三〇と三七は同時期に前線入りし、それ以降ずっといっしょに戦場を生き延びてきた。
だから三七の求めているものが何なのか理解できる。
「さ、サナどうしたの?」
「なんでもなーい」
三七には変な癖のようなものがある。
親しくなった者にあだ名をつけるのだ。本人曰く「あだ名じゃなくて名前」らしいが。
三七に『ミオ』と呼ばれているのもそのせいだ。
もっとも三〇は自分以外であだ名で呼ばれている者を見たことがないのだが。
だがしかし、もう無駄口をたたくことはできそうにない。
前方に今回の敵(だと思う)が見えてきた。