プロローグ 兵器少女の変遷
あらすじにも書いていましたが、こちらの小説は一次落ちの供養です。そう、一次落ちなんです!そのことを頭の片隅にでも置いて、あまり期待せずお楽しみいただけたら幸いです
窓一つなく真っ暗で、冷たい石材がむき出しの小さな部屋。
この狭く薄汚れた部屋がミオの住処。普通の人間ならこんな場所に住みたいとは思わないだろう。
だけどこの時のミオは『三〇(さんまる)』という番号で呼ばれていた。この名前から分かる通り人間として扱われてはいなかった。
帝国軍が所有している兵器、それも機関銃や戦車のような兵器ではなく、銃弾と同じ消耗品である。
帝国の魔法少女は人ではなかった。
低俗で卑しい人の形をした物。ゆえに『人間様』に粉骨砕身その身を犠牲にしてでも奉仕することは当たり前だ。どれだけ理不尽な暴力を受けようと、どれだけ口汚く罵られようと。
なかには反抗する魔法少女もごく稀にいた。だが三〇にはなぜ反抗するのか分からなかった。なぜなら三〇にとって生まれてきたときから続く当たり前の生活であるからだ。
それに魔法少女はそんなことを考える権利はない。ただ命令に従って力をふるい、敵だと言われた相手を殺す。そして戦場で意地汚く戦い続け、その命を花を散らせる。
これが三〇たち魔法少女の一生。
――そのはずだった。
「ミオ! お風呂に入りなさいッ」
広く清潔な部屋をドタドタと音を立てながら逃げ回る。
足の裏にはあの冷たく硬い石床ではなく、温かで足を踏み出す度に沈むほど柔らかな、木の床に敷かれた布の感触。
「よーっやく捕まえた!」
後ろから追いかけてきていた金髪の女の子に、先回りをされ抱きとめられる。そしてお風呂へと連行される。
これが今の日常。
以前とのギャップが激しく未だに戸惑うことが多いが、なぜか胸の奥がなぜか温かく、そして切なくなる。
「お風呂やだァァァァァッ」
ミオの日常はあの日大きく変わった。
弾雨が降り注ぐ戦場を走り抜けた、あの日から――。