第7話 登場、ミサイル団!? 前編
「そのミサイル団とかいう連中は一体どこにいるのよ」
かれこれ森へ入って二時間は歩き回っているが、一向にそれらしき人物には遭遇していない。というか誰にも遭遇していなかった。
勇者様は『本当に面倒臭いわね』と愚痴をこぼしながら、大木に八つ当たりをしている。
蹴りつけられた樹木が大きく揺れて、葉の擦れる音が森中に木霊すると、
――ドーンッと何かが木の上から降ってきた。
「痛いワンッ!?」
「ん……なんですか?」
突然空から降ってきたのは小さな背丈の着ぐるみを着た少年である。
額の中央付近に平べったい金貨のような物をくっつけており、白を基調とした四本髭を生やした犬(?)だ。
「なにをするワンかっ!」
お尻から派手に打ちつけた着ぐるみ少年が、お尻を擦りながら立ち上がると、勇者様に肉球を突きつけている。
「なによ……このヘンテコな子供は?」
「ワーンに向かってヘンテコとはお前失礼だワンッ!」
「ワーンだと!?」
僕はワーンと名乗った着ぐるみ少年の言葉を受けてピンときた。慌てて腰袋から『攻略本』を取り出してページを捲る。
あった!
昨夜寝ずに『攻略本』を頭に叩き込んでいた成果が早速実を結ぶ。
攻略本には全部で151匹のポッケモンの情報が記載されており、その中にワーンと呼ばれる犬型モンスター……ポッケモンのことも書かれていた。
のだが……これは……モンスターなのか?
どこからどう見ても人間……子供にしか見えないぞ。
「謝るワンッ! ワーンはお尻を怪我したワン!」
「あんた誰に向かって言ってんのよっ! あ・た・し・は……勇者よっっ――!!」
子供相手にも一切容赦のない勇者様は手を腰に当ててドヤ顔を決め、大きなお胸を突き出して威張り散らすを発動する。
勇ましいお姿に思わず見惚れてしまったのだが、相手は子供ですよ?
本当に大人気ない勇者様だなと、嘆息してしまう。
「ワンッ!? お、お前がこの世界の勇者ワン!?」
「この黒髪、どこからどう見てもあたし以外に勇者なんていないじゃない。それよりも非礼を詫びるならいまよ? あたし……子供相手でも遠慮はしない主義だから」
うわぁーっ、本当に性格だけは最低な勇者様ですね。美少女な容姿じゃなかったら伝説級に嫌われているところですよ。
「ワははははっ――」
子供の方も相当たちが悪そうだ。
あそこまで勇者様の額に怒りマークが浮き上がっているのに、謝罪の言葉を述べるどころか高笑いしている。
関わるとろくなことにならなさそうだなと、僕は肩を竦めた。
「勇者なあたしを差し置いて偉そうに笑ってんじゃないわよ!」
「幻のポッケモンになり得る勇者を見つけたワン! お前はザンゲ様のコレクションとして捕獲するワンッ!」
「はぁ? このあたしを捕獲? ザンネンなコレクションですって!?」
「だ、誰もザンネンなコレクションとは言ってないワンッ!」
酷い聞き間違いだ……。
だけど……確かにあの人が残念な勇者様であることは間違いないと思ってしまった僕は、罰当たりだろうか……。
「あたしを侮辱してただで済むと思わないことね。殺すわよっ!」
子供相手に殺すと意気込むあの人が、本当に勇者様をやっていていいのだろうか。甚だ疑問である。
僕を本気で殺そうとした勇者様だし、止めないと本当に人殺しをしかねない。
凄まじい殺気を放出する勇者様に『丸くなる』を使用していただき、大人しくしてもらいます。
「ちょっ、ちょっと! お願いだから急に使うのやめてよぉっ! せめて一声かけなさいよね、バカっ――!」
「何をやってるワン? だけどチャンスだワン!」
クルリンパと宙を舞ったワーンが勇者様から大きく距離を取ると、奇妙な形をした杖を天にかざして赤い煙を放った。
「魔法の杖ですかっ」
「感心してないで早くこれを解きなさいよ!」
丸くなるを継続中の勇者様を傍目に、ワーンが愉快そうに肩を揺らしている。
「これは信号弾だワン。ワンたちの世界では一般常識だワン」
さっきからこの世界とか言ってるけど……ひょっとして異世界転移者なのかな?
「そこに居るのは誰!? 出てきなさい!」
ワーンの放った真っ赤な煙と信号弾なる武器に見とれていると、勇者様が丸くなりながら鋭い声音を発した。
丸くなる勇者様の目線を目で追っていくと、真っ赤な髪の男性に、紫色の髪の女性が木の枝に立っているのを発見する。
二人とも似たような衣服に袖を通しており、胸元に大きく印象的な『M』という文字が書かれていた。
「誰だ誰だと聞かれたら」
「即答してあげるが私たちの優しさ」
「異世界の滅亡を防ぐため」
「異世界の秩序を守るため」
「まごころ込めて悪を貫く」
「パンクでロックな敵役」
「ムルサ!」
「コウシロウ!」
「異空間を越えるミサイル団の二人には」
「太陽フレア真っ赤な未来が待ってるぜ!」
「ワーンてワンッ!」
突然、どこからともなく現れた二人組みが意味不明なことを叫んでいる。
呆気に取られた僕と勇者様がポカーンと半口開けていると、コウシロウさんと名乗った方が「決まったな」と百合の花を気障っぽく投げ捨てた。
地面に落ちた百合の花に目を奪われてしまった僕に、「そいつは冥土の花だ、受け取れっ!」と凄く言い声でお花をプレゼントしてくれます。
「あっ、僕にくれたのですね。これはご丁寧にありがとうございますです」
「何拾ってんのよっ、拾うんじゃないわよ!」
「えっ……だってせっかくくれると仰っておられるんですから」
「あんたどんだけお人好しなのよっ! こいつらが討伐対象のミサイル団でしょうがっ」
「あっ、そうでした」
丸くなるが解除された勇者様がスタスタと歩み寄ってきて、「バカっ!」と言いながらお花を僕から取り上げて地面に投げつけた。
いくら討伐対象から頂いたとはいえ、何度もお花を踏みつける勇者様は最低です。
「ムルサ、コウシロウ、あの女が幻の勇者だワン」
「でかしたぞ、ワーン」
「あら、たまにはワーンも役に立つじゃない」
「なら早いとこゲットして、ザンゲ様へ献上するぜ!」
「がってん承知之助よ!」
タッと木の枝から飛び降りたムルサさんとコウシロウさんが、サササッと勇者様の眼前まで歩み寄り、にたーっと笑っている。
「何よ? あんたらもあたしにぶっ飛ばされたいわけ?」
「おーほっほほほ、そいつは残念ね」
「君はもう逃げられないんだぜ」
意味深な台詞を口にしたコウシロウさんが勇者様へ向かって何かを投げた。それが勇者様のおっぱいに当たると、パカッと開いて光を放つ。
「げっ!? モンスターポール!?」
「ちょっ、嘘でしょ!? いやぁぁあああああああああ――!!」
あっ、勇者様がモンスターポールに吸い込まれていく。
でもどうして……。
どうして我が家に伝わる秘宝モンスターポールをコウシロウさんが持っているんだ。
いや、今はそんなことよりも勇者様の身が心配だ。
説明書によるとモンスターポールは使用した人にしか、そのモンスターを召喚することはできない。
勇者様を捕まえられたら僕に助ける術はないぞ!
「勇者様っ――!」
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