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第6話 ポッケモンセンターとは?

「まさかアーサー様のお知り合いに勇者様が居られたとは……神のお導きに感謝でごさいますね」


 村を救った僕たちは村長たちに感謝され、本日はここに泊めてもらう手筈となった。


「まだ三十分しか移動していないじゃない」


 村長宅の隅っこで再び丸くなるを自己発動される勇者様は、余程あの防御力が気に入られたのだろう。


「アーサー様」


 勇者様の丸くなるを観察していると、背中越しに甘い声音がかけられた。

 声の主は村長の孫娘であり、先程ピンチを救ったマリアである。


「無事で良かったです、マリア」

「アーサー様が助けて下さったお陰です!」


 グッと身を寄せてきたマリアが水っぽい瞳で僕を見つめ、ぎゅっと手を握って胸元へ引き寄せる。


「あっ……」

「んっ……」


 勢い余ってマリアのたわわに実った胸のぷにぷにへ手が触れてしまう。

 お互い恥ずかしくなって赭面し、サッと手を引っ込めて明後日の方向を見据える。


「アーサー様は勇者様のご主人様なのですね」

「んー……」


 クスクスと笑ったマリアが『凄い!』と羨望の眼差しを向けてくるのだが、勇者様を従者にするなど失礼極まりないのです。なのできっぱりとそこは否定しておきました。


「このあたしが貧乏男爵家に仕えるわけないでしょ! 冗談でも笑えないわ。そもそも、あたしは公爵家の娘でもあるのよ」

「ええっ!? 勇者様は公爵令嬢様だったのですか!」


 初耳です。勇者様でありながら公爵令嬢なんて……スーパースターじゃないですか!?


「勇者様の黒髪もとても珍しくてお綺麗です」


 マリアが褒めると満更でもないと言った表情を浮かべて、得意技になりつつある威張り散らすを発動する勇者様。


「当然よっ! このあたしはかの勇者の曾孫なんだから。この黒髪だって、勇者だった曾祖父から譲り受けたものよ」

「なら勇者様の初恋相手は曾祖父ということになりますね。近親相姦です。ふしだらです!」

「違うわよっ! 変な言いがかりつけないでよ。あたしが好きなのは別の勇者よっ」


 プンスカプンスカと癇癪を起こす勇者様に、マリアの祖父で村長のおじいさんが申し訳なさそうに話しかけてきた。


「それでその……勇者様に折り入ってお願いしたいことが――」

「断るっ!」


 即答だった。

 村長がまだすべてを言い終えていないにも関わらず、勇者様はそれを遮りビシッと掌を突き出す。


 自慢の黒髪をバサッと手で払いのけ、いつもの上から目線で物申している。


「あたしは忙しいの、わかる? あたし勇者なの。すっっっごく忙しいのよねっ!」

「王様の使いっ走りで借金取りをするくらい勇者様は忙しいですからね!」

「……………」


 薄情な勇者様にチクリと嫌味を言ってみると、ギシギシと歯軋りを立てながら『黙れ』と目だけで黙殺してくる。

 そんな恐ろしい勇者様には『丸くなる』を使って少し大人しくしていただきます。


「ちょっ、ちょっと、これやめてよ! 脚に胸が押し潰されて痛いのよっ!」

「こんなときにプチ自慢なんてしなくていいんですよ。村長さんが困ってるんですから助けるのが勇者様のお仕事です」


 完璧な勇者様の欠点は怠惰な性格であると、僕は見抜いていた。

 誰もが憧れ敬う素晴らしい勇者様に育てあげること、きっとそれがポッケモンマスターの僕の使命なのだと考え始めている。


「それで、勇者様へのお願いとは何ですか? 勇者様は困っている人を決っっして見過ごすことの出来ない勇者様です。何でも言ってくださいね」

「嫌よ、あたしやらないわよ! なんであたしが働かないといけないのよ。本当は家でゴロゴロ怠けていたいのがあたしなのよっ!」


 丸くなりながら悪態をつく勇者様は、まるで引きこもりのヤドカリのようです。頑なに働きたくないと首を振るお姿は……みっともないの一言に尽きますね。


「そんなのは怠惰な勇者様を見ていればお見通しですよ。僕がポッケモンマスターとなったからには、勇者様には勇者様たる人格者になってもらいますからね」

「ふざけんじゃないわよ! ポッケモンセンターは何処にあるのよ――!」


 勇者様の悲痛な叫びを耳にした村長が、『ポッケモンセンターですか?』と言葉を紡ぐ。


「知ってるの!? あんたポッケモンセンターが何処にあるか知ってるの?」

「はい、少々お待ちを……」


 ポッケモンセンターを知っていると言った村長が、タンスをガサガサと漁っている。

 タンスの中にポッケモンセンターでも入っているのか?


 ポッケモンセンターってタンスに入るほど小さいのかな?

 そもそもポッケモンセンターって何なのだろう?


「ありました、これです!」


 村長が差し出してくれたのは書物。

 そこには『ポッケモン攻略本 白黒』と書かれている。


「ポッケモン攻略本!? ちょっ、ちょっと拝見させて頂きます!」

「ちょっ、あたしにも見せなさいよぉぉおおおおっ!」


 なんとっ!?

 これは紛れもなくポッケモンについての書物だ。

 しかもご丁寧にポッケモンセンターまでの地図も付いている。


 丸くなるを解除した勇者様も真剣な面持ちで貴重な書物に目を通していた。


「やりましたね、勇者様!」

「ちょっと待って……マザラタウンてどこの町よ! そんな町あたし知らないわよ!」

「この国の地名ではないようなのですよ」

「この国じゃないって……つまり世界のどこかってことよね」

「あっ!?」


 勇者様と村長の話に耳を傾けながら書物を念入りに調べていると……とんでもない人物の肖像画を発見してしまった。


「オーギド博士……」

「あんたこのおっさん知ってんの?」

「はい。我が家に伝わる秘宝――モンスターポールをくださった方です!」

「つまり……こいつが悪の元凶かっ!」


 あれ……でも確か……亡くなった祖父の話だとオーギド博士は異世界からやって来た転移者だと聞いたことがあるけど……まっ、いっか。


「決まったわ。王都へ向かうのも魔王討伐も中止よ! まずは何としてもこの厄介な呪いを解くために、ポッケモンセンターを探し出すわ」

「ええっ!? 僕の借金のことを王様に話してくれるって約束したじゃないですか!」

「全部済んだら話してあげるわよ! どうせ地図を入手したんだからすぐに見つかるわ」

「それなら……まぁ、いいですけど」


 希望に満ちた勇者様は『楽勝だわ』とご機嫌でお風呂へと向かわれた。人様のお家で一番風呂を決め込む図々しさは、勇者様というご職業からは想像がつかないほどの厚かましさだ。



 その後、『ポッケモン攻略本』を譲ってもらうことを条件に、僕たちは近頃森の中に現れるという謎の組織――ミサイル団を討伐する流れとなった。

【皆様へのお願い】


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[良い点]  丸くなりながら悪態をつく勇者様は、まるで引きこもりのヤドカリのようです。 ↑例えが分かりやすくて、面白いです。
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