表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/18

第1話 勇者様ゲットだぜ?

本日は三話まで更新いたします。

「それでどうするのよ! 早く決めてくれないかしら? あたしこう見えて忙しいのよね!」


 現在、僕は少し困った状況に直面している。


 僕ことアーサー・ペンドラゴンは辺境の村で領主を務める男爵家の長子なのだが、先日父が他界した。

 母は数年前に他界しており、実質我がペンドラゴン家は僕が家督を継いだことになっている……のですが。


「参ったな」


 僕は冷や汗をタラタラ流しながら溜息を吐き出した。

 そして申し訳なさそうに何度も頭を下げる。


 僕の前で傲然と脚を組み直してふんぞり返っているのは王都からやって来たという女勇者様。


 見る者を虜にしてしまう蠱惑の瞳、雪のように真っ白な肌理の細かい肌、美しい声音は誘惑の人魚を彷彿とさせています。


 幼い頃から鍛え抜かれたのだろうと思われる身体は引き締まっており、衣服の上からでもわかるほど自己主張の強い豊満な胸、珍しい黒髪が腰まで伸びていた。



 十人中十人、誰が見ても絶世の美少女であることは間違いなしのお方です。


 しかし、僕にとって彼女は救世主様でもなんでもない。あえていうなら世界一恐ろしい借金取り……とでもいうべきなのでしょうね。


 というのも、爵位と領地を与えられた貴族は決められた額を毎月国に納めないといけないのだが、先日亡くなった父はここ数年、一ギルも納めてなかったらしいのです。


 それに怒った王様が、近くで魔物討伐をしていた勇者様を借金取り代わりに寄越して来ました。

 当然払うものを払っていなかったのはこちらが悪いわけで、僕としては払いたいのだけれど……如何せん我が家は貧乏。


 これには理由があります。


 うちの村は貧しくて、村人たちは薬を買うお金もない。

 そこで父が彼らの代わりに買い与えていた。


 そんなことを繰り返せば我が家の資金はすぐに底を尽く。それでも困ってる人を見捨てることのできないお人好しの父は、私財を投げ売って村人たちを守ってみせた。


 とても誇らしいことなのだが、国に税を納めていないのは本末転倒。

 よって僕が怒られ、責められているという訳です。


「もう少し待って――」

「無理よ!」


 もらえませんか……そう言う前にきっぱりと断られてしまった。


「これでも数年待ってあげてるんだから、感謝はされても恨まれる筋合いはないと思うのだけど? ってのが王様の言い分でしょうね」

「はぁ……」


 厳めしい顔で睨みつけてくる勇者様が『早くして』と言わんばかりに、『タッタッタ』と足を鳴らしてくる。


 美しい顔に似合わずせっかちな性格なのだろうか。

 その度に急かされた僕の額からは玉のような汗が流れ落ちていく。


「その……お金が」

「ないなら爵位と領地は没収! 当然でしょ? ……って、やめてよ! そんなことしても無理よ!」


 僕は涙を浮かべながら、ソファで寛ぐ勇者様に両手をついて、額を床に擦り付けながら懇願する。


「お願いです。お金は必ず近日中に何とか致します。だから……だから、父が守り抜いてきたこの土地だけはっ」


 代々ペンドラゴン家が守り抜いてきたこの土地を、僕の代で絶やすわけにはいかないんだ。

 そんなことになれば死んだ父にも、母にも顔向けできない。


「お願いです……何でもしますから! 勇者様!!」

「……そ、そんなことあたしに言われても……困るのよね」


 目を逸らして綺麗な黒い髪を指で弄る勇者様は、『もう帰りたいな~』と眉根を寄せている。


 しかしここで帰って頂く訳にはいかない。

 最後の頼みの綱は勇者様なのだから。


「勇者様が陛下に口添えしてくだされば、きっと陛下も待ってくださいます。どうか、どうか……お守りください、勇者様っ!」


 チラッと勇者様のお顔を拝見すると、『参ったな~』と言った表情がありありと見て取れた。


 やはり勇者様はお優しい。

 きっと借金返済の期日を伸ばしてくれるはず。


 ところが……。


「わかったわ。あたしも一応は勇者だし、そこまで頭を下げられたら見捨てる訳にもいかないじゃない? 但し、条件があるわよ」

「条件……ですか?」

「そうよ。いまからあんたには近くの森に潜むベヒーモスを狩ってもらうわ」

「ベヒーモスっっ!?」


 ベヒーモスと言えば……ベテランの冒険者が数人でようやく倒せるかどうかというモンスターじゃないですかっ!?

 それをこの僕が倒す……それも一人で?


 無理、無理っ無理っっ無理っっっですよ!

 絶っ対に無理ですね。

 間違いなく死んじゃいますよ。


「もちろん、あたしが危険だと判断したらそこでおしまい。あんたの願いもそこでおしまい」

「ベヒーモス……以外は?」

「ダメよ! ベヒーモスは討伐料が発生する上、あいつの肉は高額で売れるのよ。お金がないなら稼ぐしかない。それくらいじゃないととてもじゃないけど……溜まった借金なんて返せないでしょ?」


 仰る通りと僕は項垂れることしか出来ない。


「じゃあ早速ベヒーモス狩りに行くわよ」と立ち上がった勇者様に、僕は準備をさせてほしいと再び懇願した。


「何度も言うけどあたし忙しっ……すぐにしなさいよね」


 女神様に祈りを捧げるように両手を組んで祈りを込めると、三分だけ待ってくれると言う……お優しい勇者様。


 僕は急いで地下室に赴き、神棚に飾ってあった我が家の秘宝に「ごめんなさい」と、小さく呟いた。


 我が家の秘宝……モンスターポール。

 これだけは使いたくなかったのだけど……致し方ない。

 この状況では秘宝に頼る以外、選択肢が僕にはなかった。


 これは嘗て、異世界からやって来たというオーギド博士という方を祖父が助けた時に頂いた我が家の秘宝。

 言い伝えではどんなモンスターでもこのポールに封じ込め、従わすことのできるマジックアイテム。


 これでベヒーモスを捕まえることができれば、勇者様の条件はクリアできるはず。




「ということでやって来たわよ」

「……はい」


 あぁ、本当に森へやって来てしまった。

 大丈夫だろうか?

 上手く当てられるかな?


「まずはあたしがベヒーモスの巣穴に入って誘き出すから、あんたはそこを狙いなさい」

「あの……危ないときは」

「もちろん助けてあげるわよ!」

「くれぐれもお願い致します!」


 僕はお優しい勇者様に深々と頭を下げた。

 勇者様は『面倒臭いな~』と頭を掻いて、臆することなく洞窟の奥へと足早に消えていく。


「凄いな~。ベヒーモスの巣穴にズカズカ入って行くことのできる人間なんて、きっと勇者様くらいだろう」


 なんてことを考えながら数分じっと茂みに身を潜めて待っていると、穴の奥深くからおぞましい雄叫びが聞こえてきた。


 一瞬チビりそうになって脚がガクガク震えるけど、ここで逃げ出す訳には行かない。

 せっかく慈悲深い勇者様が与えてくださったチャンス。無駄にしてなるものかっ!



 息を殺し、穴から飛び出して来たベヒーモスに当てる……ただそれだけだ。

 大丈夫、投擲するだけなんだから。


 地鳴りのような凄まじい音が徐々に穴の奥から響いてくる。

 やつが……ベヒーモスが来ます!


 僕は恐れを振り払い脚を大きく上げて振りかぶる。


『グォォオオオオオオオオオオオ――』

「ほら、来たわよ!」


 洞窟から飛び出して来た勇者様がお空へ向かって大跳躍し、その後ろから激昂するベヒーモスが猪突猛進してきた。


 ここしかないと、僕は力一杯ポールを投げた。

 

「あっ――!?」


 が、やってしまった……。

 元々ボール投げはノーコンで不得意だった上に、力み過ぎてモンスターポールが変な方向へ飛んでいってしまう。


 やってしまったと頭を抱えながらモンスターポールの行方を目で追うと……勇者様の身体に直撃してしまった。


「げっ!?」


 するとモンスターポールがパカッと眩い光を放ちながら開き、あれよあれよと勇者様を吸い込んでしまうじゃないか。


 あわあわあわとパニックを起こす僕は、とりあえずベヒーモスから隠れなきゃと木陰に身を潜める。


 ベヒーモスは突然消えた勇者様を探すようにキョロキョロと辺りを見渡している。


 だけどその勇者様は……モンスターポールの中だ。

 どうしよう……絶対あとで怒られますよね。


「勇者様……」


 言い伝えだとモンスターしか捕まえられないはず……だから大丈夫だよね?

 大丈夫……きっとすぐにモンスターポールから勇者様が解放されるはずだと信じ、僕は様子を窺う。


 すると――ブンッブンッと変な音を鳴らしながら、モンスターポールの中央部分が赤く点滅して光っている。独りでにポールが揺れていた。


「どうなってるんだろ……中で勇者様が暴れているのかな? 壊されたら困るな」


 モンスターポールは一個しかない。

 あれが壊されたらベヒーモス討伐なんて絶対に無理だぞ。


 僕は勇者様の無事を祈りながら、どうか壊さないでくださいと天に祈りを捧げていた。


 本当はすぐにでも勇者様をモンスターポールの中から救出したいのだけど、下手に動いてベヒーモスに気づかれたら殺されてしまうので……それは出来ない。


 じっとモンスターポールを遠目から観察していると、突如奇妙な鳴き声をモンスターポールが発した。


 ――ティンティンティティティーン♪


 揺れが収まったモンスターポールから愉快な音が聞こえてきたのだ。


「なんだ……いまの音は?」


 目を凝らしてモンスターポールを睨みつけてみるが、しーんと静止したまま動かない。



「あれ? まさか……嘘だろ!?」



 僕は慌ててポケットに押し込んでいたモンスターポール取り扱い説明書を取り出し、それを確認する。



「なになに、モンスターポールは対象相手をボールの中へ封じ込め……捕獲中は中央部が点滅します……捕獲に成功するとメロディで知らせます。ふむふむ…………えっ!?」


 メロディ……って、いまのティンティンティティティーン♪ じゃ……ないよね?


 想像するだけで恐ろしい。

 もしもあの中から勇者様が解き放たれたら……僕、殺されるんじゃないのか?



 僕はモンスターポールで勇者様を捕獲してしまったショックから、立ったまま気を失ってしまった。

【皆様へのお願い】


面白そう。

続きが気になる。

更新応援してますなど、

少しでもそう思って頂けたら、


下にある「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にしてください!


(……評価してもらえると、作者のモチベがめちゃくちゃ上がるので最高の応援になります)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] やばいのが始まった(笑) こんなの笑うわ!! 面白すぎ(笑) [一言] 更新頑張ってください!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ