太平な世を創るために。
柔らかい手が這う。
「そこだ、そこ……」
「ふふ、御屋形様っていつも固いですよね」
素直に良い腕前だと思う。
「最近は特に机仕事が多くてな……」
「毎日ご苦労様です、マッサージぐらいならいつでもお受けいたしますので――少しはご自愛ください、はい、終わりですよ」
作務衣を着た赤い髪の少女に施術を受けていた肩をポンッと叩かれる。
そう討ち入りの際、土下座をしていた少女だ。
今はここで始めたサービス、肩ほぐしをしてもらっていた所だ。
最初はぎこちなかったものの回数をこなすうちに、お客から指名回数が番付一番となっている。
そんな彼女を自由に呼べるというのは役得であろうと正直に思う。
「客の入りは上々ですね」
「腕がいいからな」
「もう褒めても何も出ませんよ……ここ、温泉宿のことです」
ここは天然の鉱泉を利用した温泉宿だ。その一室で施術を受けていた。
木材を基調とした建物で特別感を演出し、随所に天然の畳、和紙による襖などの拘りを入れ、黒船側のメカメカしい感じから解放されると宣伝している。
人を相手にする商売するのは絡繰人形で自動的に相対する部分以外にも必要になってくる部分があるし、何より気遣いなどのおもてなしの経験は金銭に代えがたいと評判だ。
順調に泊り客が増えている。
「最初、水商売と聞きましたが、まさか温泉商売とは思いませんでしたよ」
「水で商売しているであろう?」
「それを水商売とは言いませんよ……さておき、現金の収入が入るのは確かに嬉しいですね……最近、農作物の売りの価格が下がっていて」
「農業だけで見ていけば他の星からも大量に輸入がされるであろうことは想像の範囲であった。それこそ、ここよりずっと生産に向いた星はそれこそ多くあるはずだ」
これは予測していた事態であり、今となっては周知の事実だ。
「……先を見据え利益を出し、それを持って地域の職の創出を行えば、地域経済も循環していく。そうすれば、皆が幸せで、それこそが大殿様の意図であろう皆の太平を守ることに繋がるのであろうと考えておる」
そしてそれが、自分の為すべきことで、故郷に錦の旗を挙げるための手段と据えた。
「ご立派です」
「ただ、これはまだ序の口と考えておる」
そうまだまだ懸念事案は多い。
輸出入の問題だけではない。
それこそ労働環境の押し付けに始まり、教育制度の変更、機械化手術への法規制が検討されるなど様々な所で歪が出ている。
「それとあんまり危ない仕事の方はご自重くださいね?」
力が入った拳を握られる。
「何の事であろう?」
「知っていますよ、水の件で悪徳商人を無礼討ちにしたことを皮切りに、姿を隠して行動をし、様々な事件を解決していることは」
「ハハハ――知らぬな」
事実である。
まだまだ、法が整わないし、私服を肥やし、太平を乱すものがのさばっている。
それを無視する選択肢は無いと決めたのだ。
ただ、それを理由に今ある企業を巻き込めず、結論的に姿を隠して行動することに決めた。
「最近は、悪を倒すサムライ仮面とオーエドでも人気だそうで」
恐らく仕掛け人は橋本殿だ。
地球側が法や調整で動けぬ今、協力者と位置付けることで動きやすくしてくれているのだろう。
ありがたい話である。
「少なくとも私にとっては村を救って頂きました英雄なのですから、ご自愛ください」
「サムライ仮面の話は知らぬが心得ておこう」
呆れた顔で返されるが、これはこれで良いのであろう。
さておき、一つ気になることがまだある。
「先ほど水で商売するのが水商売ではないと申されたが、水商売とは本来どういう意味で使われるのであろうか?」
「――知りませんよ!」
彼女は顔を真っ赤にして出て行ってしまう。
「ふむ、良く解らぬな」
ともあれ、今日も一日が終わった。
明日も太平な世であれればと思う。
お題小説はここで完結です。
楽しんでいただけたでしょうか?
恐らくはサイバー仕置き人みたいな話になるんじゃないかなぁ……
気付いている人はいると思いますが、世界観的には和風トライガンです。
設定は使えるので、気が向いたら何かの形で書ければと思います。
それでは依存症で。
依存性のある家族計画
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