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退職金は水源

「大殿は大政奉還を宣言されたか!」


 私はデジタル算盤を止め、部下にそう聴き返した。

 時は今、地球からの黒船の来航、これにより現政権は戦うか、否かの瀬戸際にあった。


「ご家老様、デジタル回覧板で宣言された様子はここに!」


 確かに我藩主の供にオーエドに参勤交代した時に見た大殿、ショーグン様のご尊顔だ。

 今の派閥は主に二派あった。遥か過去に江戸ショーグネートからの言葉を引用し、地球連邦政府と戦う攘夷派、地球連邦政府に政権を譲る大政奉還派に分かれていた。

 そして私は大殿が賢明な判断を下し、民のことを考えていらっしゃることを再認識した。

 勝てない、そう判っていたからだ。

 元々、この過酷な砂漠が七割を占める星の歴史を紐解けば、不時着した移民船を源とする文化で限られた資源を取り合いになった。水一滴の争いで戦国時代が起きたこともあり、結果的に江戸ショーグネートを真似した武士と呼ばれる武力階級が限られた物資を管理する体制に治まった。

 当然、実際の江戸ショーグネートに比べれば文明や技術は発展しているが、宇宙航行などはロストテクノロジーだ。そんな我が国が勝てるわけがないのは自明の理だ。


「七尾殿、おるか!」


 御年七十一歳、同僚であり先輩が私の名前を呼びながら飛び込んできた。


「皆木先輩、慌ててもどうにもなりませんよ、大政奉還でしょう?」

「そうだ、それだ……地球側の発表では現役職の人を基本的には引き継ぐそうだが、六十五歳以上は解雇される旨が通達されおった……年寄りは要らぬとのことだ……!」

「ご隠居とお呼びした方が?」

「冗談を言っとる場合か、貴殿は今年で何歳だ?」

「数えで十六歳ですが、それが何か」

「地球側は十八歳以下も駄目だと出してきおった、お主も暇を出されるぞ!」

「……冗談もほどほどにお願いいたします、十二歳にも成れば童ではなく、一人の大人でありましょうに」


 デジタル回覧板に記載があるだろうと見る。

 その旨が間違いなく書かれており、


「どうしたものか」

 眩暈がした。

 私の名前は、七尾・瀬戸。自分で言うのも何だが天才だ。

 齢十二歳にしてニューシャドウケンドーの師範代となり、算術や政治も納め、藩の大役となる家老に選出されたエリートである。

 故郷は貧しく、錦を飾ると誓い、藩を超えてオーエドに推薦されるのも時間の問題だった。

 だが、その夢はこの日、潰えることになった。



「どうしたものであろうか」


 解任式の後。

 明日から二十歳以下はご法度になる酒を飲みかわしながら、最期を迎える十八歳以下組が頭を突き合わせて愚痴を零しあっている。

 悲嘆にあけるもの、地球人殺すべしと息巻くもの、各々が自分の将来に悲嘆している。

 確かに地上戦で切り結ぶなら負けないだろうとは思うが。


「十八歳以上になった際に再任も難しいであろうと聞き及んだが?」

「学歴というものが必要だそうだ、何だそれは」

「すなわち大学というものを卒業せねば、資格を受けられぬとのこと、寺子屋との違いが判らん」

「そして地球仕えは新卒扱いという訳の分からない単語で薄給となるとのことでそもそも夢が無い」


 つまり、目指すなら割に合わないし、別の稼ぎが必要になるとのことだ。

 全員が全員悩んでいる。


「……どうしたものであろうか」


 私も悩んでいる。確かに退職金、あるいはそれに準じた金品や権利などは貰える約束だが、それを持って故郷に帰っても目的としていた錦を飾れるわけでも無し、果たして。


「やぁ、七尾元ご家老、元気かい?」

「七尾で結構でござる、橋元殿」


 同門で同年齢の橋元殿、軽い印象を持つが、自分と同じ師範代を持つ。今日までは一隊を纏める侍大将を勤めていた。


「敬語を使わないのは久しぶりだな」

「いつも使ってなかったような気がするであるが、貴殿は明日からどうするおつもりで」

「ふふふ、商売をするつもりさ……!」

「商人の物真似を……?」

「年齢による制限は地球仕えになる連中だけさ、普通に商売するのなら関係ない……俺は退職時の金を元に水商売を始める……地球人専門なら任侠モノとも利権が被らないだろうしな……!」

「水商売とな」


 聞いたことのない単語である。


「この星には資源が少ない中で、何を売り物にするかというと、彼らの当然に求めるモノは当然に需要が発生するわけだ」

「確かに」

「あぁ、人間には当然に必要だろ?」


 人間にとって水は必要である。歴史もそう言っている。


「それも上質の奴であればあれば、いろんな需要が出てくる寸法さ」

「然り」


 確かに飲料資源としての水は今でこそ、地球の黒船からの技術到来により価値の下がっているモノではある。しかし、逆に工業生成出来ない天然水、特にミネラルだか良く分からない成分を含んだ水が地球人に人気だという話は聞いたことがある。


「俺はコネを作るためにオーエドへ行く。それにお前にもついてきて欲しいんだ……!」


 面白い。確かに勝てない話ではない。

 ただ、オーエドに行くだけでは勝てないのでは無かろうかと思う。


「さすればこういうのはどうであろうか、自分は藩に残り需要のありそうなモノを抑え、管理し、販路を拡大していく……橋元殿はコネを獲得しにオーエドに行き、成った後に自分が商品を提供しよう」

「確かに商品が無ければ、意味が無いか……判った、それでいこう!」


 そして約束とばかしに、強く握手を行った。



「何、退職金の代わりに藩の持つ水源が欲しいとな?」

「は、間違いなく、自分が欲しいものはそれでござりますれば」


 退職金の沙汰が下りる日。私は調べに調べ、地球人にとって有用な水源を割り出し、それらを退職金代わりに殿へと願い申し上げた。中には鉱泉や温泉など、通常は使用しない水源も含んでいる。

「七尾、確かに水源は貴重であった昔であれば首を縦に振らなかったであろう」


 水源は農業、工業ならびに生活に直結する資源で、これが無ければ始まらなかった。

 二十数個の水源など、昔ならどんな恩賞でも考えられないことではあった。


「今は水源など不良在庫じゃ……地球の技術により、空気中から水を生成できるようになり、それは各藩にくばられておるのは知っておるな? 貴殿の功績を鑑みれば、遊んで暮らせるだけの金銭やオーエドへの大学への試験免除への推薦なども行えるのじゃが?」

「いえ、提示した水源で十分でございますれば、藩も大政奉還により力を目びりされている時に処分に苦しむこれらの管理に費用を掛けている所ではないかと」

「あい、判った、七尾、お前の藩を思う気持ち確かに受け取った…達者でな」

 


 さて目論見通りに事は進み、水源を手に入れた私が先ず手を付けたのは、地球人が好んで飲む【みねらるうぉーたー】の真似事である。

 水を入れる容器自体は資源の保存の観点上、問題の無いものが存在する。

 それこそ地球人の言う【ぼとる】と遜色ない、竹缶がある。

 それに判りやすい様にラベルを付け、密封、これを地球人に会う時の土産にしろと橋本殿に百本ほど郵送する。試供品であり、釣り針である。

 効果はたちまち現れた。


『水商売のためのコネを作るのに、水を使うとはな……とりあえず、これだけで商品になるからどんどん送れ、売りさばいてやる……!』


 こう手紙に書かれていたが、要領を得ない部分はあるが概ね順調らしい。

 とりあえず、竹缶に詰める作業所を作るから地球人の持つ【ぼとる】技術設計をよこせと送り返しておくことにした。

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