千一夜ジェノサイド
1日目
私は深夜の住宅街を歩いている。
飲み過ぎたせいか、足がふらつく。
何度も立ち止まりながら、我が家を目指して歩いている。
明日は休みだ。
子供達と遊園地にいかないと。
どすん・・・。
背後から何かがぶつかってきた。
ナイフが刺さっているようだ。
腹のあたりが熱くなって、痛くって、そしてだんだんと寒くなってきた。
ああ、俺は死ぬんだな・・・・。
ごめん・・・・、子供達。父さん遊園地に行けなかった。
2日目
部屋の窓から綺麗な満月が見える。
都会に出てきて半年だ。
やっと職場にも馴染んできた。
化粧も上手になってきた気がする。
今日は、営業の同期にデートに誘われちゃった。
突然のことにびっくりして返事を保留しちゃったけど、うれしかった。
明日はちゃんと返事しよう。
がちゃがちゃ・・・・。
玄関のほうで物音がした。
嫌だ、誰かがはいってきた。
ぼーっとしちゃって、鍵、締めてなかったのかしら。
どこか隠れる場所は・・・。
ああ、男が入ってきた。手にナイフ持ってる。
やめて、助けて・・・・。殺さないで・・・・・。
神さま・・・・。
3日目
わしは急いで工場へ戻ろうとしていた。
現金の入ったバッグを大事に抱えて。
銀行の人間が待っている。
これでなんとか不渡りを出さすに済む。
もう大丈夫だ。来月にはもっと大きな金が入ってくる。
従業員にもちゃんと給料が払えるし、娘の学費も払える。
妻には苦労をかけた。
落ち着いたらふたりで旅行にでも出かけるか。
突然、頭に強い衝撃が走り、目の前が赤く染まった。
わしは膝から崩れ落ち、倒れる。
誰かがバッグを奪おうとしている。
ダメだ、この金は死んでも渡せない。
男はバットを握り直して二度三度とわしの頭に振り落とし、わしの意識は消えていく。
ああ・・・どうして。
4日目
ぼくがおうちにかえろうとしていたら、おじちゃんによびとめられた。
おじちゃんはみちにまよっているらしい。
ちょこれーとをかってあげるよとおじちゃんはいった
ぼくはおじちゃんといっしょについていった。
おじちゃんはおおきなだれもいないたてものにはいっていった。
ここはこんびにじゃないよとぼくはいった。
おじちゃんはだまってぼくのくびをしめた。
ぼくはくるしくってないたけど、おじちゃんはゆるしてくれない。
おかあさんがしらないひとについていっちゃだめといってた。
おかあさんごめんなさい。
いいこにするからぼくをたすけて。
「もうたくさんだ、やめてくれ。」
白衣の男が冷たい視線を俺に向けた。
「どうしてですか、あなたはまだ4回しか死んでませんよ。」
俺はやつの首をしめようと手を動かそうとし、椅子に拘束されていることに気づいた。
俺は刑の執行をうけていることを思い出す。
「いっそ本当に殺してくれ。」
俺は叫んだ。
「それはできないことはあなたもご存知でしょう。死刑制度は5年前に廃止されましたから。」
「だからといって、これはひどすぎる。」
白衣の男は言葉を強めた。
「あなたに殺された人も、同じように苦しんだんですよ。それはあなたが一番よくわかったはずですよね。」
そういったあとに、ぽんっと手を打って言葉を続けた。
「ああ、これは失礼。まだ4人分しか経験されてませんでしたよね。」
確かに死刑制度は廃止された。
しかし、罪もなく殺された被害者やその家族の心情を考慮し、新たに仮想死刑が設けられたのだ。
それにより、殺人犯は自分が犯した犯罪を自分のものとして体験することになる。
被害者の痛みも恐怖も全く同じものを感じることになるのだ。
違うのは、本当に死ぬことはできないということ。
どんな凶悪な犯罪者でも3回目くらいにはおかしくなってしまう。
それでも精神学者や心理学者が治してしまうため、気が狂うこともできない。
病気になっても、高度な治療が受けられ、死ぬこともできない。
それって、まるで地獄じゃないか。
白衣の男は面白くもないと言った顔で俺に宣告する。
「さあ、そろそろ5日目にしましょうか。今度はあなたに生きたまま焼かれた男ですね。」
頭にヘルメットのようなものが被せられ、無数の点滴のようなものが刺された。
「い、いやだ・・・・。」
俺は弱々しく抵抗した。
「大丈夫ですよ。あと、たった995回で終わりです。」
俺は千人殺しの虐殺者。
サイコパスだ。
薄れゆく意識の中で子供の頃に読んだアラビアンナイトを思い出す。
あれは生きるために千日の間、話し続けたんだったよなあ・・・・。
最近、そこそこ読んでくれる人の数が増え、感謝です。
昨今の死刑廃止論をネタに書いてみましたが、少々出がらし感がでてきちゃいました。情けない。
またなんかネタを思いついたら書き込みますのでよろしくお願いいたします。