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始動

舞台説明が終わり、ようやく主人公が動き出します。

 高野1192年3月29日の朝を迎えた俺は、陽の光が射すと自然と目が覚めた。肉体は若返ったが、歳をとって早起きになるルーティーンは変わらないようだ。

 俺は横で和やかな寝息をして眠っているユキを起こさないようにベッドから降りた。ユキの寝顔は世界を滅ぼしてしまうポテンシャルを持っているとは思えないほど可愛い。

 東寺重工のユキ関連施設を破壊すれば、間違いなく追われる身となるだろうが、この世界にしがらみが一切ない俺は、前世と言っていいだろう地球での人を犯罪者から守る仕事から真逆の活動に身を委ねることに不思議と躊躇はなかった。

「丈二、どこ」

 躰を寄せ合っていた俺の温もりが無くなったのに気付いて、瞬時に目覚めたユキは焦って叫んだ。

 俺はその対応の速さに皇帝の夜のボディガードとして洗脳されただけあるなと思った。

「ここにいるよ」

 俺はユキの頭を撫でて安心させると、朝っぱらから抱いた。

「俺はとりあえずお前のために、この世界で何でもすることにした」

「丈二、ありがとう」

 ユキはそう言ってギュッと抱きしめてきた。かなり痛かったがそれを口に出さず、俺はユキに口づけした。何でかそうしないといけない気がしたからだ。


 ホテルを出た俺はホームセンターに向かった。知識があれば爆弾の原料となるものは全てここで手に入る。車ならトランクや後部座席に積み込めるが、バイクではそうはいかない。

「丈二、異空間ボックスなら何でも入るよ」

 ユキが言うには異空間ボックスは真空の空間の中に物を保管できるが、真空空間なので劣化しない代わりに温度調整はできないらしい。つまり、温かい料理のような物は冷めてしまうようだが、保管することには問題がないようだ。

「それは便利だな、ユキの異空間ボックスに俺の財産の全てを預けたい」

 俺は肩掛けバックの中の物も全て、ユキの異空間ボックスへと移した。もしユキが、生命体としての活動を停止したならば、この世界に伝手のない俺も終わりである。でも、それでいいと自然に思えた。この世界ではユキに運命を委ねるしかない俺は、人ではない水球外生命体ではあることは分かっていたが、特別な感情が芽生えていることに気づいた。

「よろしいのですか」

「ユキが居なければ、俺はこの世界で生きていけないよ」

 それを聞いたユキはちょっと嬉しそうに笑った。

「丈二は私の事を愛しているのですね」

 俺の言葉を曲解している気がしたがあえて否定しなかった。ユキの笑顔が60年の生涯の中で俺が巡り合った女の中で一番可愛いいと感じてしまったからだ。

「愛しているという感覚が俺にはよく分からないが、そうなのかもしれない」

 暴走族の特攻隊長の時から硬派を表明して女性の接近を一切排除し、警察官になってもその路線を貫き、浮いた噂の一つも無い俺は当然のことだが独身だった。

「ユキは丈二を愛しています」

 俺は出会ってから僅かな時間しか経っていないユキの言葉に返答に窮した。水球外生命体は一度躰が繋がってしまうと心まで繋がってしまうのだろうか。地球で警察官だった俺はレイプされた女性の感情などを鑑みて理解しがたいものがあり尋ねた。

「ユキの思いに俺はどう応えたらいい」

 俺の問いにユキは満面に笑顔を浮かべて言った。

「丈二の体調に問題が無ければ、たくさん抱いて欲しい」

「えっ」

 絶句した俺にユキは衝撃的な言葉を放った。

「それが共鳴率を高くする唯一の手段だからだからです」

 俺はユキが嬉しそうに言うのを聞いて、交わることで共鳴率を上がるのならがんばろうと決めた。ユキの持つスキルの中で共鳴率が30%を超えると、『念話』が使える様になるとあったのを思い出した俺は要望に応えることにした。

「分かった、おいで」

 俺は朝食のバイキングに行く前に、ユキをベッドに誘った。ユキは嬉しそうにベッドにもぐりこんで来た。

「共鳴率が1%になりました」

 事が終わった後にユキが幸せそうに言うのを聞いて、俺は魔性の女の虜になってしまったのだと感じた。硬派を貫いていた俺は女性に溺れて人生を狂わせた犯罪者を軽蔑していたが、今はその気持ちが分かる。


 予想はしていたが、朝食バイキングもユキは満面に笑みを浮かべてお替わりに奔走していた。

 そして、予想外なことに俺達は高野呑海と同じテーブルに着いていた。

「いやあ、昨日の晩にあれほど食べて、朝からこれだけ食べるとは凄いものだな」

 呑海は美しくクビレた腹部を膨らせることもなく、トレーの皿の上に盛られた料理を平らげていくユキを訝し化に注視していた。

「食に関して妻はちょっと異常な執着がありまして」

 まだ、まだ行けそうなユキであったが、俺がアイコンタクトをすると残念そうに頷いた。

「ああ、お腹いっぱい。もう食べられそうにないわ」

「毎回これほど食べて太らないとは信じられぬ」

 俺は異空間ボックスを持っているユキは、経口から得た物を目視できる躰ではなく、別の場所に摂取しているのだろうと推測したが、呑海にとっては魔法を見せられているのに等しいだろうと思った。

「殿下、それでは我らは失礼させていただきます」

 俺は呑海の前から一刻でも早く立ち去りたかた。

「うむ、中々に面白いものを見せてもらた」

「有難き幸せにございます」

 俺とユキは呑海の御前から早々に退散した。


 俺はホテル御前10時にチェックアウトすると、ホームセンターへと向かった。『岡忠』というホームセンターで俺は、爆薬の材料となる物と時計を購入した。俺は爆発物処理班ではなかったが、市販の物資を使って爆薬を作る術を知っていた。

 ホームセンターでの買い物を終えて、『ハリー』の許に戻ると上空を大きな飛行機が西に向かって飛んでいくのが目に入った。

「ジェットエンジンは開発されていないのか」

 俺の疑問にユキが答えた。

「ジェットエンジンという名のエンジンは水球にはありません。プロペラを回転させて飛ぶ飛行機しかありません」

 車やバイクが走っている世界なので、プロペラの飛行機は存在するとは思っていたが、ちょっと予想外だった。地球の第二次世界大戦で活躍したイギリスの戦闘機スピットファイアのエンジンが、自動車メーカーのロールスロイス社製だったのは衆知のことである。

 俺は片翼に二つのプロペラエンジン計4基を載せた飛行機に、たぶん呑海が乗っているんだろうなと思った。俺は支払いを済ませてカートに乗せてあった物資を、女子トイレでユキの異空間ボックスに収納するように頼んだ。


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